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ウランとプルトニウム[編集]
核分裂反応を起こす物質(核種)はいくつか存在するが、原子爆弾にはウラン235またはプルトニウム239が用いられる。
ウラン原爆[編集]
広島に投下された原子爆弾
(リトルボーイ)
ウラン235は広島に投下された原子爆弾で用いられた。
天然ウランに含まれるウラン235の割合はわずか0.7%で残りは核分裂を起こしにくいウラン238である。
そのため、原爆に用いるためにはウラン235の濃度を通常90%以上に高めなければならず、辛うじて核爆発を引き起こす程度でも最低70%以上の濃縮ウランが必要となる。
放射能が少ないために取り扱いは容易であるが、ウラン濃縮には大変高度な技術力と大規模な設備、大量のエネルギーが必要とされる。
.ウランは後述の砲身方式、爆縮方式のどちらでも使用可能である。
ウラン濃縮による原爆製造は初期設備投資は比較的安価だが、電力を大量に消費し運転経費がかかる上、同じ核物質の量でプルトニウムより少ない数の原爆しか作れないため、原爆1個あたりの製造コストはプルトニウム原爆より高価になる。
一方で、ウラン濃縮施設はプルトニウム生産黒鉛炉と違って地下に設置しやすく大量の赤外線を放射しないので偵察衛星に位置を察知されにくい。
また、砲身方式は必要臨界量が多く製造効率が甚だ悪いものの、核実験なしでも核兵器を持てる。
そのため核開発初期段階の国はウラン原爆と砲身方式の組み合わせを選択する場合が多い。
イランの核開発もウラン原爆計画が主体である。
マンハッタン計画で、ウラン235が臨界質量以下の小片を2つ合体させ、臨界質量以上にすることにより容易に核分裂連鎖反応を開始できることが明らかになったため、広島型原爆には後述の砲身方式が選択された。
砲身方式においてウラン原爆の臨界量は100%ウラン235の金属で22kgとされている。
広島型原爆ではウラン235が約60kg使用されたとされる(全ウランに対するウラン235の割合が80%の濃縮ウラン75kg)。
プルトニウム原爆[編集]
長崎に投下された原子爆弾
(ファットマン)
プルトニウム239は自然界には殆んど存在しない重金属であるが、原子炉(燃料転換率の高い原子炉が望ましい)内でウラン238が中性子を吸収することで副産物として作られるため、ウランのような大量の電力を消費する濃縮過程を必要とせず、原子炉で電力が得られるという利点もある。
また臨界量が5kgとウラン235に比べてかなり少量で済む利点がある。
プルトニウムは放射能が強いため取り扱いは難しく、生産に黒鉛炉または重水炉、再処理工場の建設費がかかるが、副産物として電力が得られ、1発あたり生産コストがトータルではウラン原爆より安価に済み、核兵器量産に向くため、現在は5大国と北朝鮮の核兵器生産はプルトニウムが主体である。
しかし通常の工程で生成されるプルトニウムには、プルトニウム240が兵器として使用できる許容量を超えるレベルで含まれており、このプルトニウム240は高い確率で自発核分裂を起こす性質を持っている。
このため、砲身方式ではプルトニウム全体が超臨界に達する前に一部で自発核分裂が起きて爆弾が四散してしまうなど、効率の良い爆発を起こすことが難しい。
したがって密度の低いプルトニウムを球状にし、爆縮によって密度を高め核分裂連鎖反応を開始させる爆縮方式が用いられる。
また核分裂連鎖反応が開始されてからプルトニウム239が飛散して終了するまでの反応効率が砲身方式よりも高いというメリットもある。
長崎に投下された原子爆弾にはこのタイプが用いられた。
なお、爆縮方式を用いる場合でもプルトニウム240の含有量が7%を超えると過早爆発の原因になり、核兵器製造に向かない。
日本の原子力発電で使われている軽水炉の使用済み燃料抽出プルトニウムはプルトニウム240を22-30%前後含有し、プルトニウム240を分離しないと核兵器に使えない。
核兵器製造にはプルトニウム240含有量が7%以下の兵器用プルトニウムが得られる黒鉛炉やカナダ型重水炉もしくは高速増殖炉(日本には常陽ともんじゅがある)を使うのが普通で、北朝鮮の原爆計画の主力であるプルトニウム計画は黒鉛炉、イラン原爆計画において傍流であるプルトニウム原爆計画では重水炉が使用されている。
ミニ・ニューク[編集]
技術の進歩で使用目的に適した爆発力を持つよう小型化されるようになったものをミニ・ニュークという。
少ない核物質で多くの核弾頭を製造可能な反面、一発あたり威力もやや少なくなる。
米国の核物理学者トーマス・コクラン博士は爆縮方式の場合、より少量で超臨界が可能であることに着目して臨界量を分析しなおし、今日では従来より少量の核物質で超臨界が可能であり、プルトニウム原爆は最新技術では1.5kg、途上国の技術でも2kgでの超臨界が可能であると発表した。
またウラン原爆は爆縮方式なら3-5kgでの超臨界が可能と見られている。
長崎型原爆が20キロトンを超えていたのに対し、北朝鮮が2006年に行った核実験では中国への事前通知が4キロトン、実験結果が0.8キロトンだったことから、限界までプルトニウムを節約した小型核弾頭実験に挑んで、結果はやや過早爆発気味であったのではないか、という観測もある。
構造[編集]
原子爆弾の構造。上:砲身方式、下:爆縮方式
原子爆弾の構造は単純である。
本質的には、臨界量以下に分割した核分裂性物質の塊を瞬間的に集合させ、そこに中性子を照射して連鎖反応の超臨界状態を作り出し、莫大なエネルギーを放出させる、というものである。
ただし実際には、爆弾に用いる物質の性質に応じて大きく2種類の構造が用いられる。
ガンバレル型[編集]
詳細は「ガンバレル型」を参照 ガンバレル型(英:Gun barrel)または砲身方式はウランを臨界量に達しない2つの物体に分けて筒の両端に入れておき、投下時に起爆装置を使って片方を移動させ、もう一つと合体させることで超臨界に達するものである。
合体の容易性から構造は凹型と凸型の組み合わせ、または筒型と柱型の組み合わせとなる。
広島に投下されたリトルボーイがこの方式を採用した。
しかしリトルボーイでは、60キログラムとされるウランのうち実際に核分裂反応を起こしたのは約1キログラムと推定されている。
その他のウランは核分裂を起こさずに四散した。
初期の核砲弾用弾頭などの量産例はあるが、砲身方式を積極的に選択する意義は少ないため、核開発・製造において主流ではない。
インプロージョン型[編集]
詳細は「爆縮レンズ」を参照 インプロージョン型(英:Implosion)または爆縮方式は、英語のexplosion「爆発」という語のex-(外へ)という接頭辞をin-(内へ)に置き換えた造語で、「爆縮」はその和訳である。
爆縮方式とはその名の通り、プルトニウムを球形に配置し、その外側に並べた火薬を同時に爆発させて位相の揃った衝撃波を与え、プルトニウムを一瞬で均等に圧縮し、高密度にすることで超臨界を達成させる方法である。
長崎市に投下されたファットマンで採用された。
プルトニウムは自発核分裂の確率が高く、プルトニウム原爆は過早爆発防止の為にこの方式でのみ実用可能となるのに対し、ウラン原爆はインプロージョン型、ガンバレル型のどちらでも可能である。
しかしこの方式は衝撃波の調整や爆縮レンズの設計が非常に難しく、高度な計算に使用できるほど高性能なコンピュータがなかったマンハッタン計画時、数学者ジョン・フォン・ノイマン達の10か月にも及ぶ衝撃計算がなければ実現し得なかったと言われている。
砲身方式の原爆は実地テストなしで広島に投下されたが、爆縮方式の爆弾はこのような高精度の動作が求められたため、ニューメキシコ州アラモゴードのトリニティ実験で設計通りに作動することを確認するテストが行なわれた。
この方式は前述の砲身方式より効率が良い。
核分裂連鎖反応が始まって核物質を四散させようとする圧力が働いても、爆縮による内向きの圧縮力が押さえこみ、核分裂が継続するためである。
そのため、第二次世界大戦以後製造された原子爆弾は、核開発の初期段階で製造されたものを除きプルトニウム型・ウラン型ともに爆縮方式である。
改良型の原子爆弾[編集]
D-T強化方式
D-T強化方式の原子爆弾(Boosted fission weapon)は爆縮方式の性能向上型であり、基本となる核分裂反応を利用した原子爆弾の中に、核分裂反応での分裂効率を高める目的で核融合反応の要素を加えたものである。
原子爆弾は核反応を起こすべき核物質が全量エネルギーを開放するように作ることは21世紀現在も行えず、他の化学反応による爆発を利用した通常爆弾と異なり、多くの核物質は核分裂反応に寄与せずに飛散してしまう。
飛散する前により多くの核分裂反応をプルトニウムに行わせることが出来ればそれだけ多量のエネルギーを生み出すことができる。
D-T強化方式ではプルトニウムを使用した爆縮方式での球状のコアの中央に空洞部を作って二重水素(デューテリウム、D、2H)と三重水素(トリチウム、T、3H)のガスを50%ずつ、計5グラムほど注入しておく。
爆縮によってプルトニウムが圧縮されながら核分裂を始め1億度近くになった時点でこれらのガスはD-T核融合反応を起こし、プルトニウムによる核分裂時に生じる7倍ほどの高速の中性子を1つ放ってヘリウムに変化する。
D-T反応による高速中性子は通常ならばプルトニウムの核分裂断面積が小さくなってしまって分裂効率が悪くなるが、爆縮によって密度が増したプルトニウムの原子核では核分裂断面積は充分に補われて、DT反応由来の高速中性子が効果的にプルトニウム原子核を分裂させる。
また、中性子の速度が増すと核分裂で生じる中性子の数は増加する。
つまり、プルトニウム自身の核分裂反応由来の中性子による核分裂では中性子が2-3個ほどしか生じないが、DT反応由来の高速中性子によって同じプルトニウムが核分裂する場合でも、平均5個ほどの中性子が生じる。
1個の中性子で5個ほどの中性子が作られることにより、分裂効率は高められて短時間で核分裂反応が進む。長崎型ファットマンでは分裂効率が14%だったとされるが、D-T強化型では30%にできるとされる。
尚、核兵器についての民間の書籍などではこのD-T強化方式の説明や構造模式図が「水爆の構造」として記述されていることがある。
しかし、D-T強化方式はあくまで原子爆弾の一種であり、水素爆弾には分類されない。
過早爆発[編集]
詳細は「不完全核爆発」を参照 プルトニウム原爆において、反応材のプルトニウム240含有量が7%を超過、爆縮が不完全、軽量化のため爆縮火薬を削減しすぎた余裕のない設計、などの場合では、爆縮方式であってもプルトニウム240の自発核分裂の発生する外向きの爆風が、TNT爆縮火薬の内向きの圧力に打ち勝ってプルトニウム239の塊が充分に核分裂を完了する前に吹き飛ばしてしまう。
この現象が過早爆発であり、プルトニウム239の一部しか核分裂しないため、爆発力が計画値を大幅に下回ってしまう。