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2・先住民族教育自治政策 BC州のファースト・ネーション

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このガイドラインの発表以降,カナダ各地で自治(政府)協議が行われ,同様に教育に関する自治が協議された。連邦政府と先住民族両者の自治権の範囲についての相違によって,自治協議が最終合意に達することを困難にしていることに留意しなければならない27)0 1996年,王立先住民族委員会がカナダ総督に提出した最終報告書の中で勧告をし,それを受けて,連邦政府は先住民族に対して和解声明を発表した。

(4) 力を結集してーカナダ先住民族行動計画 (GatheringStrength一Canada'sAboriginal Ac-tion Plan)

1998年1月に, DIAND大臣は, AFNとの協議を行った結果, I力を結集して カナダ先住民族行動計画 (GatheringStrength一Canada'sAboriginal Action Plan :以下行動計画と略称)Jを発表した。

これは,連邦政府と先住民族が対等なパートナーシップを築くとともに,先住民族と非先住民族の相互理解を深め,先住民族自身による統治体制を強化し,先住民族が独立独行していけるような財政援助の仕組みを構築すること,そして先住民族コミュニティの経済活性化を支援することを目標としたものである。

DIANDは,行動計画の中で,先住民族が教育権保障を得

24) 浅井晃『カナダ先住民の世界』彩流社, 135-136頁。

25) 連邦政府がここでいう先住民族自治政府とは,連邦・州政府と並ぶ「第三の政府」として,扱うものではないことに注意が必要である。 PauletteC. Tremblay, First Nations Educational Jurisdiction,AFN, August 2001, 32pp.

26) Nancy A. Morgan, Legal Mechanisms for Ayymption of Jurisdiction付 FirstNations, The First Na-tions Education Steering Committee, June 1998 (Revised), 24-25pp 広瀬健一郎「カナダにおける先住民教育権の保障に関する研究Jr文化女子大学室蘭短期大学研究紀要J26号, 2003年, 35頁。

27) Noah Augustine, Sove吋 igentyKey Issue for Aboriginaks, The Toronto Star, January, 1, 2000

September 2009 カナダにおける先住民族教育自治政策 247

方法として,以下の2点を提示した。

第一に,既存の条約をもとに,連邦,州ないし準州政府並びに当事者であるファースト・ネーションの三者が共に,条約権における教育権の内容を定義すること,又はインデイアン法の枠内で法律を整備することである。

第二に,土地権益請求協議や先住民族自治政府協議,先住民族教育自治協議等を通じて,教育権の内容を定義し,連邦政府や州もしくは準州政府とファースト・ネーションの三者が協定を締結することを打ち出した28)。

その上で,教育権限が,個々のバンド,連邦政府,州もしくは準州政府による三者合意によって定義・保障されること。

そうでない場合は,インディアン法の下に置かれるか,州もしくは準州政府の下で,一般カナダ市民と同列に扱われる29)。

尚,教育権限協定を締結した場合,インデイアン法の教育条項の対象外となる。

後述する BC州のファースト・ネーション教育法は,第二の方法で締結されたものである。

行動計画以後の教育プログラムとして,先住民族癒し基金,先住民族言語プログラム,先住民族ヘッド・スタート計画,教育改革基金並びにファースト・ネーション・イヌイット青年雇用戦略が決定した。

紙幅の関係上,簡単な紹介のみにとどめる。

・先住民族癒し基金 (AboriginalHealing Foundation) 2000年度, 4000万ドルを投じ,先住民族自治の強化・障害児教育や言語・文化学習の指導方法の改善に利用30)。

・先住民族言語プログラム (AboriginalLanguages Initiative) 1998年,先住民族の言語を話す人口を増やし,代々引き継いできた言語を継承することによって,家族とコミュニティが次世代の為に先住民族言語を維持することを目的とする。多目的先住民族センターを設置して,先住民族文化や言語学習プログラムを提供する31)。

・先住民族ヘッド・スタート計画 (AboriginalHead Start On Reserve) 1995年に始まったが,行動計画後, 1998年にプログラムを拡大。先住民族青少年プロジェクトとして文化,言語,教育,健康促進,栄養物摂取,社会的サポートなどの部門で展開問。

・教育改革基金 (EducationReform Fund) AFNとの協議を経て設置。先住民族自治の強化,障害児教育や言語・文化の指導方法の改善を目指す。

・ファースト・ネーション・イヌイット青年雇用戦略 (FirstNations and Inuit Youth Em-ployment Strategy Annual Report) リザープに居住する登録フ 7ースト・ネーションとコミュニティ在住のイヌイットを対象とする。ファースト・ネーション・イヌイット夏期学生職業紹介プログラム,ファースト・ネーション・イヌイット科学技術キャンプ,ファースト・ネーション学校共同プログラム,ファースト・ネーション・イヌイット青年職業体験プ

28) Minister of IndianbAffairs and Northern Development, Gathering Strength-Canada's Aboriginal Ac-tion Plan, 1997.

29) 広瀬, 2006年, 29, 38頁。

30) http://www.ahf.ca/announcements. 2009年 2月9日採取。

31) http://www.pch.gc.ca/pgm/pa.app/pgm/i1a-ali/guide-eng.cfm# a2, 2009年2月9日採取。

32) http://www.hc-sc.gc.ca/fniah-spnia/famil/ develop/ ahsor-papa_intro-eng.php, 2009年2月9日採取。


248 経済学論集(民際学特集) Vol. 49 No. 1
プログラム,ファースト・ネーション青年ビジネス・プログラムがあるお)。

2章では,連邦政府の対先住民族教育政策について概観した。

1972年の「インデイアン教育はインデイアンの手でJより,教育自治を求める動きは始まったが,政策に大きな動きを伴うようになったのは1982憲法制定後以降のことである。

先住民族側は,一貫して教育自治を求めてきたが,その 1つの成功例が, BC 1十|である。

3章では, BC 州におけるファースト・ネーションの教育政策を通して,その問題点について述べることにする。

3. BC州における先住民族政策

(1)先住民族の法的権利

BC州における先住民族教育政策は, 1849年に,ハドソン湾会社が,初等学校を創設したことに始まる34)0 1867年憲法により,連邦政府に先住民族教育の責任があることは上述した。

また1870年,連邦政府がリザーブに送り込んだ宣教師による教育システムの策定が始まりとなる。

その後,長きに渡って行われた先住民族同化政策(寄宿学校への分離政策や統合教育政策)は,BC州でも例外なく実施された。

BC州内の先住民族の権利を検討するにあたり,他州と大きく異なる点がある。

それは,ナ'"の先住民族の大半が, DIANDや1866年以前における英国政府とも,条約を結んだことがないという点である。

その為, BC州の先住民族の多くが,伝統的・文化的に深いかかわりがある土地と,その土地の資源の権利を,正式に手放したことがないのである。

他州の先住民族は,昔から連邦政府と条約を結んでおり,土地や資源の権利をはじめとして,様々な権利(条約権)を確立している。

但し,条約に関する問題点は多く,その合法性についての訴訟は絶えないが,条約の存在により,先住民族の自治権と土地・資源に対する管理権の性質と範囲は,一般的に BC州より明確と言える。

もう一つ,先住民族の権利として,土地に対する先住権原があり,土地・天然資源の利用や漁携,狩猟,山菜採取などが,これにあたる。

1982年憲法は,条約権と先住権が認知されているとして,憲法上の条項により,政府はつねに正当な理由なしに権利を侵害してはならないとした35)。

また裁判所が先住民族グループの伝統的領土の一部での経済開発をする場合は,事前に当該先住民族と協議を行い,先住民族の利益を考慮するよう,政府に命じる一連の判決と,先住民族の組織的活動及び先住権への一般カナダ社会からの支持が増加するにつれて,それまで先住民族との交渉を無視してきた BC州政府は,そ

3) http://www.ainc.inac・gc.caled ul epl ysl iyel ywe 1・eng.asp,2009年2月9日採取。

34) F・へンリー・ジョンソン著,鹿毛基生訳『カナダ教育史』学文社, 1984年, 81頁。

35) 1982年憲法25条「この憲章における権利および自由の保障は,次の各号に含まれるカナダの先住民族に関する先住民族としての,条約上の,もしくは他の, U+203E 、かなる権利または自由を廃止する,あるいは減ずるものと解釈されてはならない。

(a)1763年10月7日の国王宣言によって認められたいかなる権利または自由(b)土地請求に関する協定により獲得できるいかなる権利または自由。太田唱史, r先住民族とカナダ市民権一一植民地主義を越えて一一J同志社法学会『同志社法学J55(3), 2003年9月。

September 2009 カナダにおける先住民族教育自治政策 249の政策転換を迫られることとなったのである。

1990年8月,州政府は,先住民族,連邦政府の三者による交渉への参加を承認した36)0 BC 州政府は, I先住民族諮問に関する州政策」を策定し,資源開発その他,土地を利用した経済開発に関して,各省庁が先住民族と協議を行う義務を詳細に規定した37)。

(2) BC州条約委員会 (BCTreaty Commission)

現代の条約交渉の目的は,現在においても法的定義が明確ではない様々な先住権について,範囲を特定,定義し,近代的な条約に書き換える点にある。

1992年,ファースト・ネーション,連邦政府, BC 州政府の三者は,条約権交渉を進めるにあfこって,条約交渉のスムーズ化を目指して,中立の機関となる BC州条約委員会(以下条約委員会と略称)を設立した38)。また,先住民族代表と連邦・州政府の代表が IBC条約委員会協定(The British Columbia Treaty Commission Agreement) Jに署名,条約締結協議に同意した39)。

1993年には,州・連邦・先住民族の代表が構成する条約委員会が設置された。これにより, 1992年以降,条約を締結していない先住民族と,新たな条約を締結する土地権益請求協議,教育自治協議などが交渉が行われるようになった。その交渉過程は,表1のように 6段階に分かれている40)。

この条約の主な内容は以下の四点である。

・伝統的な領土内の土地や資源から,権益を一貫して所有している先住民族の許可を得ずに非先住民族社会が利益を得てきたことへの経済的支払い。

・特定の土地を「条約和解地jとし,先住民族の共同所有とする。「条約和解地」の分配が困難な場合には,現金による支払いを行う。

・条約に先住民族の管轄権条項を盛り込む。社会,文化,資源管理,土地への権限を含む。

. I条約和解地」に住む先住民族に対する現行の免税措置の廃止,先住民族への交付金を定めた規則,先住民族は将来的な請求権を放棄するという法的拘束力のある約定41)。

36) Chief Joe Mathias, Miles G. Richarsdon, The Report 01 the British Columbia Claims Task Force,June 28, 1991, 7-8pp.

37) Jock A. Finlayson著,ジェトロ・パンクーパ一事務所訳, rカナダ・パンクーパーのビジネス環境一2001年6月以降のプリティッシュ・コロンピア州政府の政策転換および法改正,ならびに州のピジネス環境に対するその影響J,2004年 1月, 54頁。

38) http://www.bctreaty.net/files/about-us.php. 2008年11月1日採取。

39) 岩崎まさみ「カナダ先住民による海洋資源の管理:カナダ西部極北地域のイヌピアロウイットとプリティッシュ・コロンピア州先住民族のケースから」岸上伸啓(代表)r基盤研究A

(2)先住民による海洋資源利用と管理:漁業権と管理をめぐる人類学的研究 (1999-2001)研究成果報告書J.53頁。

40) Chief Joe Mathias, Miles G. Richarsdon, The Report 01 the British Columbia Claims Task Force,June 28, 1991, 16・18pp.

41) Jock A. Finlayson, 2004年, 56頁。

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