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動衛研:家畜の監視伝染病 届出伝染病−42 山羊関節炎・脳脊髄炎
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山羊関節炎・脳脊髄炎(caprine arthritis-encephalomyelitis)
対象家畜:山羊
1.原因
レトロウイルス科(Retroviridae)、レンチウイルス属(lentivirus)、山羊関節炎・脳脊髄炎(CAE)ウイルス。
ゲノムは同一の単鎖の-RNAが2本で、二量体を形成している。
逆転写酵素を有し、自らのゲノムRNAを宿主細胞質内で逆転写し、合成されたウイルスDNA(プロウイルス)を核内の宿主細胞のDNAへ組み込むことで増殖する。
2.疫学
主な伝播経路は初乳・常乳を介した垂直感染であるが、呼吸器飛沫による水平感染や、まれではあるが、胎内感染もある。
1974年の最初の報告以来、世界各国で発生が報告されている。
日本では、2002年に初めて本病の存在が確認された。
3.臨床症状
発症率は10%程度とされ、多くが臨床症状を示さないまま終生ウイルスを保持する。
発症時には、生後数ヶ月以内の幼若山羊では非化膿性脳脊髄炎による運動失調、起立不能といった症状が認められる。
成獣では間質性肺炎による呼吸器症状や、非化膿性乳腺炎による乳房の硬結が主に認められる。
4.病理学的変化
関節炎発症個体では、関節の腫脹及び腫脹部の皮下に嚢水腫形成が認められ、組織学的には同部位に非化膿性関節滑膜炎が観察される。
肺炎発症個体では肺の肥厚、硬化、組織学的には肺胞中隔の肥厚や炎症細胞の浸潤といった非化膿性間質性肺炎が認められる。
脳脊髄炎では、肉眼的変化はほとんどみられないが、組織学的に中枢神経系における囲管性細胞浸潤や脱髄が観察される。
5.病原学的検査
感染個体の白血球、関節液などを山羊の初代培養細胞(関節滑膜細胞、肺細胞など)に接種することでウイルスを分離できる。
ウイルスの存在は、感染細胞が形成する多核巨細胞の有無で確認する。
しかし、このウイルスの分離には数週間から数ヶ月を要し、効率が悪いため、一般的には血清学的検査(寒天ゲル内沈降試験、ELISA等)を用いて診断する。
補助診断法としてPCRによるウイルス遺伝子検出も用いられる。
6.抗体検査
現在各国で確立されているのは寒天ゲル内沈降試験、ELISA法、CF法である。
欧米ではELISAキットが市販されている。
日本では寒天ゲル内沈降試験による検査が可能である。
7.予防・治療
予防法及び治療法はなく、摘発淘汰を基本とする。
経乳感染を防ぐことで、群における伝播の9割以上が阻止できるとさる。
8.発生情報
監視伝染病の発生状況(農林水産省) 山羊関節炎・脳脊髄炎・発生情報(2004年以前、2007年)
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第3版(近代出版) OIE: Manual of Diagnostic Tests and Vaccines for Terrestrial Animals 2013 OIE: Terrestrial Animal Health Code (2013)
山羊関節炎・脳脊髄炎の調査及び診断法の確立:動物衛生研究所 研究報告、第113号、23-30 (2007)
写真1:手根関節腫脹により起立困難なシバ山羊
写真2:非化膿性関節炎(HE染色、40倍)
写真3:顕著なリンパ球浸潤を伴った間質性肺炎(HE染色)
編集:動物衛生研究所動物疾病対策センター疫学情報室、文責:ウイルス病・疫学研究領域 小西美佐子 (平成24年9月3日 更新)