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思い出し笑いを何度も注意され、知らない病院に介護タクシーで連れて行かれ、医師に頭から『統合失調症』扱いで入院中です。
統合失調症
統合失調症は、およそ100人に1人弱がかかる頻度の高い病気です。
「普通の話も通じなくなる」「不治の病」という誤ったイメージがありますが、こころの働きの多くの部分は保たれ、多くの患者さんが回復していきます。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病と同じように、早期発見や早期治療、薬物療法と本人・家族の協力の組み合わせ、再発予防のための治療の継続が大切です。
脳の構造や働きの微妙な異常が原因と考えられるようになってきています。
統合失調症とは
統合失調症は、幻覚や妄想という症状が特徴的な精神疾患です。
それに伴って、人々と交流しながら家庭や社会で生活を営む機能が障害を受け(生活の障害)、「感覚・思考・行動が病気のために歪んでいる」ことを自分で振り返って考えることが難しくなりやすい(病識の障害)、という特徴を併せもっています。
多くの精神疾患と同じように慢性の経過をたどりやすく、その間に幻覚や妄想が強くなる急性期が出現します。
新しい薬の開発と心理社会的ケアの進歩により、初発患者のほぼ半数は、完全かつ長期的な回復を期待できるようになりました(WHO 2001)。
以前は「精神分裂病」が正式の病名でしたが、「統合失調症」へと名称変更されました。
患者数
厚生労働省による調査では、ある1日に統合失調症あるいはそれに近い診断名で日本の医療機関を受診している患者数が25.3万人で(入院18.7万人、外来6.6万人)、そこから推計した受診中の患者数は79.5万人とされています(2008年患者調査)。
受診していない方も含めて、統合失調症がどのくらいの数に上るかについては、とくに日本では十分な調査がありません。
世界各国からの報告をまとめると、生涯のうちに統合失調症にかかるのは人口の0.7%(0.3~2.0%;生涯罹患率)、ある一時点で統合失調症にかかっているのは人口の0.46%(0.19~1.0%;時点有病率)、1年間の新たな発症が人口10万人あたり15人(8~40人)とされています。
発症は、思春期から青年期という10歳代後半から30歳代が多い病気です。
中学生以下の発症は少なく、40歳以降にも減っていき、10歳代後半から20歳代にピークがあります。
発症の頻度に大きな男女差はないとされてきましたが、診断基準に基づいて狭く診断した最近の報告では、男:女=1.4:1で男性に多いとされています。
男性よりも女性の発症年齢は遅めです。
原因・発症の要因
原因ときっかけ
統合失調症の原因は、今のところ明らかではありません。
進学・就職・独立・結婚などの人生の進路における変化が、発症の契機となることが多いようです。
ただ、それらは発症のきっかけではあっても、原因ではないと考えられています。
というのは、こうした人生の転機はほかの人には起こらないような特別な出来事ではなく、同じような経験をする大部分の人は発症に至らないからです。
素因と環境
双生児や養子について調査をすると、発症に素因と環境がどの程度関係しているかを知ることができます。
たとえば、一卵性双生児は遺伝的には同じ素因をもっているはずですが、2人とも統合失調症を発症するのは約50%とされていますので、遺伝の影響はあるものの、遺伝だけで決まるわけではないことがわかります。
様々な研究結果を総合すると、統合失調症の原因には素因と環境の両方が関係しており、素因の影響が約3分の2、環境の影響が約3分の1とされています。
素因の影響がずいぶん大きいと感じるかもしれませんが、この値は高血圧や糖尿病に近いものですので、頻度の多い慢性的な病気に共通する値のようです。
子どもは親から遺伝と環境の両方の影響を受けますが、それでも統合失調症の母親から生まれた子どものうち同じ病気を発症するのは約10%にすぎません。
症状
統合失調症の症状は多彩なため、全体を理解するのが難しいのですが、ここでは幻覚・妄想、生活の障害、病識の障害の3つにまとめてみます。
幻覚・妄想
幻覚と妄想は、統合失調症の代表的な症状です。
幻覚や妄想は統合失調症だけでなく、ほかのいろいろな精神疾患でも認められますが、統合失調症の幻覚や妄想には一定の特徴があります。
幻覚と妄想をまとめて「陽性症状」と呼ぶことがあります。
幻覚
幻覚とは、実際にはないものが感覚として感じられることです。
統合失調症で最も多いのは、聴覚についての幻覚、つまり誰もいないのに人の声が聞こえてくる、ほかの音に混じって声が聞こえてくるという幻聴(幻声)です。
「お前は馬鹿だ」などと本人を批判・批評する内容、「あっちへ行け」と命令する内容、「今トイレに入りました」と本人を監視しているような内容が代表的です。
普通の声のように耳に聞こえて、実際の声と区別できない場合、直接頭の中に聞こえる感じで、声そのものよりも不思議と内容ばかりがピンとわかる場合などがあります。
周りの人からは、幻聴に聞きいってニヤニヤ笑ったり(空笑)、幻聴との対話でブツブツ言ったりする(独語)と見えるため奇妙だと思われ、その苦しさを理解してもらいにくいことがあります。
妄想
妄想とは、明らかに誤った内容であるのに信じてしまい、周りが訂正しようとしても受け入れられない考えのことです。
「街ですれ違う人に紛れている敵が自分を襲おうとしている」(迫害妄想)
「近所の人の咳払いは自分への警告だ」(関係妄想)
「道路を歩くと皆がチラチラと自分を見る」(注察妄想)
「警察が自分を尾行している」(追跡妄想)
などの内容が代表的で、これらを総称して被害妄想と呼びます。
時に「自分には世界を動かす力がある」といった誇大妄想を認める場合もあります。
妄想に近い症状として、
「考えていることが声となって聞こえてくる」(考想化声)
「自分の意思に反して誰かに考えや体を操られてしまう」(作為体験)
「自分の考えが世界中に知れわたっている」(考想伝播)
のように、自分の考えや行動に関するものがあります。
思考や行動について、自分が行っているという感覚が損なわれてしまうことが、こうした症状の背景にあると考えられることから、自我障害と総称します。
幻覚・妄想の特徴
統合失調症の幻覚や妄想には、2つの特徴があります。
その特徴を知ると、幻覚や妄想に苦しむ気持ちが理解しやすくなります。
第1は、内容の特徴です。
幻覚や妄想の主は他人で、その他人が自分に対して悪い働きかけをしてきます。
つまり人間関係が主題となっています。
その内容は、大切に考えていること、劣等感を抱いていることなど、本人の価値感や関心と関連していることが多いようです。
このように幻覚や妄想の内容は、もともとは本人の気持ちや考えに由来するものです。
第2は、気分に及ぼす影響です。
幻覚や妄想の多くは、患者さんにとっては真実のことと体験され、不安で恐ろしい気分を引き起こします。
無視したり、ほうっておくことができず、いやおうなくその世界に引きずりこまれるように感じます。
場合によっては、幻聴や妄想に従った行動に走ってしまう場合もあります。
「本当の声ではない」「正しい考えではない」と説明されても、なかなか信じられません。
生活の障害
統合失調症では、先に述べた幻覚・妄想とともに、生活に障害が現れることが特徴です。
この障害は「日常生活や社会生活において適切な会話や行動や作業ができにくい」という形で認められます。
陰性症状とも呼ばれますが、幻覚や妄想に比べて病気による症状とはわかりにくい症状です。
患者本人も説明しにくい症状ですので、周囲から「社会性がない」「常識がない」「気配りに欠ける」「怠けている」などと誤解されるもととなることがあります。
こうした日常生活や社会生活における障害は、次のように知・情・意それぞれの領域に分けて考えると理解しやすいでしょう。
会話や行動の障害
会話や行動のまとまりが障害される症状です。
日常生活では、話のピントがずれる、話題が飛ぶ、相手の話のポイントや考えがつかめない、作業のミスが多い、行動の能率が悪い、などの形で認められます。
症状が極端に強くなると、会話や行動が滅裂に見えてしまうこともあります。
こうした症状は、注意を適切に働かせながら会話や行動を目標に向けてまとめあげていく、という知的な働きの障害に由来すると考えられます。
感情の障害
自分の感情についてと、他人の感情の理解についての、両者に障害が生じます。
自分の感情についての障害とは、感情の動きが少ない、物事に適切な感情がわきにくい、感情を適切に表せずに表情が乏しく硬い、それなのに不安や緊張が強く慣れにくい、などの症状です。
また、他人の感情や表情についての理解が苦手になり、相手の気持ちに気づかなかったり、誤解したりすることが増えます。
こうした感情の障害のために、対人関係において自分を理解してもらったり、相手と気持ちの交流をもったりすることが苦手となります。
意欲の障害
物事を行うために必要な意欲が障害されます。
仕事や勉強をしようとする意欲が出ずにゴロゴロばかりしてしまう(無為)、部屋が乱雑でも整理整頓する気になれない、入浴や洗面などの身辺の清潔にも構わない、という症状として認められます。
さらにより基本的な意欲の障害として、他人と交流をもとうとする意欲、会話をしようとする意欲が乏しくなり、無口で閉じこもった生活となる場合もあります(自閉)。
病識の障害
病識とは、自分自身が病気であること、あるいは幻覚や妄想のような症状が病気による症状であることに自分で気づくことができること、認識できることをいいます。
統合失調症の場合には、この病識が障害されます。
多くの場合、ふだんの調子とは異なること、神経が過敏になっていることは自覚できます。
しかし幻覚や妄想が活発な時期には、それが病気の症状であるといわれても、なかなかそうは思えません。
症状が強い場合には、自分が病気であることが認識できない場合もあります。
治療が進んで病状が改善すると、自分の症状について認識できる部分が増えていきます。
ほかの患者さんの症状については、それが病気の症状であることを認識できますから、判断能力そのものの障害ではないことがわかります。
自分自身を他人の立場から見直して、自分の誤りを正していくという機能の障害が背景にあると考えられます。
治療法
治療の場を決める~外来と入院
病気が明らかになった場合、治療の場を外来で行うか入院で行うか決める必要があります。
治療の進歩により、以前と比較して外来で治療できることが増えてきました。
外来か入院かを決める一律の基準があるわけではありません。
入院治療には、家庭の日常生活から離れてしまうという面があるものの、それが休養になって治療にプラスになる場合もあります。
医療の側から見ると、病状を詳しく知ることができますし、検査や薬物治療の調整が行いやすいことが入院治療の利点です。
これらのバランスを考えて、治療の場を決めます。
医療者としても、できれば外来で治療を進めたいのですが、入院を検討するのは次のような場合です。
日常生活での苦痛が強いため、患者さん本人が入院しての休養を希望している。
幻覚や妄想によって行動が影響されるため、通常の日常生活をおくることが困難。
自分が病気であるとの認識に乏しいために、服薬や静養など治療に必要な最低限の約束を守れない。
薬物療法の位置づけ
統合失調症の治療は、外来・入院いずれの場合でも、薬物療法と心理社会的な治療を組み合わせて行います。 心理社会的な治療とは、精神療法やリハビリテーションなどを指します。薬物療法なしに行う心理社会的な治療には効果が乏しく、薬物療法と心理社会的な治療を組み合わせると相乗的な効果があることが明らかとなっています。 「薬物療法か、心理社会的治療か」と二者択一で考えるのではなく、薬物療法と心理社会的治療は車の両輪のようにいずれも必要であることを理解しておくのが大切です。とくに、幻覚や妄想が強い急性期には、薬物療法をきちんと行うことが不可欠です。
抗精神病薬が有効な精神症状
統合失調症の治療に用いられる薬物を「抗精神病薬」、あるいは「神経遮断薬」と呼びます。精神に作用する薬物の総称である向精神薬のうちのひとつのカテゴリーが、この抗精神病薬です。 抗精神病薬の作用は、大きく3つにまとめられます。 幻覚・妄想・自我障害などの陽性症状を改善する抗精神病作用
不安・不眠・興奮・衝動性を軽減する鎮静催眠作用
感情や意欲の障害などの陰性症状の改善をめざす精神賦活作用の3種類です。 幻覚や妄想が薬物によりよくなるというのは、なかなか理解しにくいことのようで、「薬によって強制的に考えが変えられる」「薬で洗脳される」と誤解される場合があります。
しかし、実際に抗精神病薬を服用した患者さんの感覚は、「幻覚や妄想に無関心になる」「行動に影響しなくなる」というものです。
ある患者さんは、「どうしてもあることにとらわれて気持ちが過敏になること、がなくなる」「頭が忙しくなくなる」「薬を飲んでも『最初にグサリときた感じ』(被害妄想を体験していた頃の恐怖感のこと)を忘れることはできないが、それだけにのめりこむことがなくなる」と表現していました。
実感としては、楽になるとかリラックスすると感じることが多いようです。
抗精神病薬の種類と量
抗精神病薬には様々な種類があります。それぞれの薬物によって、先に挙げた3種類の効果のいずれが強いかという特徴の違いがあります。それぞれの患者さんの病状を目安にして、なるべく適切な薬物を選択することになります。
一人ひとりの患者さんに合った種類や量を決めるためには、ある程度の試行錯誤が必要となります。
患者さんごとに薬の種類や量の個人差が大きいことは、精神疾患に限らず慢性疾患の治療薬物の特徴なのです。
この試行錯誤の過程は、患者さんと医師とが力を合わせて行う共同作業ということができます。 抗精神病薬は「定型抗精神病薬」と「非定型抗精神病薬」の2種類に分類されます。
定型抗精神病薬というのは以前から用いられていた薬物、非定型抗精神病薬は最近になって用いられ始めた薬物のことです。
脳における神経伝達物質への作用に違いがあるために、こうした名称がつけられています。
非定型抗精神病薬は、定型抗精神病薬にある副作用の軽減をひとつの目標として開発されたことから、全体としては精神面への副作用が少なめです。
また非定型抗精神病薬には、認知機能を改善することで生活の質(quality of life;QOL)を高める作用が強いとの指摘もあり、期待される薬物です。
主治医と相談しながら「自分に合った薬」を見つけていくことがもっとも大切です。
抗精神病薬の再発予防効果
抗精神病薬には、これまで述べたような精神症状への効果だけでなく、再発を予防する効果があります。
抗精神病薬による治療で幻覚や妄想がいったん改善しても、薬物療法をその後も継続しないと、数年で60~80%の患者が再発してしまうとされています。
ところが、幻覚や妄想が改善した後も抗精神病薬の治療を継続すると、その再発率が減少します。このように、いったん病状が落ち着いた後も服用し続けること(維持療法)で再発が予防できることを、抗精神病薬の再発予防効果と呼んでいます。
調子がよいのに薬をのみ続けるというのはなかなか納得しにくいことですが、高血圧を例に考えるとわかりやすいと思います。 高血圧で薬物治療が必要になると、血圧を下げる薬(降圧薬)を服用することになります。
降圧薬を服用すると血圧は下がりますが、それで高血圧が治ったわけではありません。
降圧薬を中止するとまた血圧が上がってしまうからです。
そこで、血圧が正常化していてもしばらくは降圧薬をのみ続けることになります。抗精神病薬による維持療法も、これと同じ仕組みと考えると理解しやすいでしょう。
抗精神病薬を中止しても、すぐに再発が起こるとは限りません。最初は服薬を中止しても何の変わりもありませんから、本人も家族も維持療法は必要ないのだと油断しがちです。
しかし何カ月かたってから、生活上のストレスをきっかけに再発が起こることが多いのです。この点を最初から理解しておくことが大切です。
服薬の中止
高血圧の場合に、降圧薬による治療を長期間続け、血圧が正常な期間が長くなると、降圧薬を中止したり減量したりしても血圧が上がらなくなることが増えてきます。
統合失調症の場合も同様で、精神症状が安定した状態が長く続くと、抗精神病薬を中止したり減量したりすることができるようになります。
その段階にまでなれば、抗精神病薬による治療は、一時的に症状を抑えるだけの対症療法とはいえなくなります。
ある意味では、服薬を続けることで病気そのものが軽くなっていくといってよいでしょう。
具体的に、精神症状の安定がどのくらい続いたら抗精神病薬を中止したり減量したりできるのかは、難しい問題です。
たとえば初発の場合には1年、再発を繰り返している場合には5年という目安が提唱されていますが、個人差が大きいので、一律に決めるのが難しいのです。
再発の徴候がつかみやすいかどうか、再発した場合の症状が生活にどのくらいの障害を引き起こすものか、などを考慮に入れて、主治医と相談することが大切です。
相談をせず自分だけの判断で中止してしまうのは、いちばんまずい方法です。
副作用
抗精神病薬は、全体としては重い副作用の少ない安全な薬です。
長期間服用を続けることを前提とした薬ですので、たとえ10年以上も服用を続けたとしても問題のない場合が多いものです。
副作用を恐れるあまり維持療法を中断し、再発を起こしてしまうのは残念なことです。
どんな副作用があるのかについて知識をもち、心配な点を早めに主治医に相談することが大切でしょう。
副作用についても個人差が大きいので、自分に合った薬物を見つけていく必要があります。
抗精神病薬の副作用は、いくつかに分類して考えることができます。
いろいろな薬物に共通する副作用
肝臓や腎臓への薬物の影響です。血液検査・尿検査・心電図などを3~6カ月に1回チェックすれば問題ありません。薬物によっては高血糖になったり、糖尿病が引き起こされたりすることがありますので、のみ始めの頃に検査の繰り返しが必要な場合があります。
抗精神病薬に特徴的な副作用
そわそわしてじっと座っていられない(アカシジア)、体がこわばって動きが悪い、震える、よだれが出る(パーキンソン症状)、口などが勝手に動いてしまう(ジスキネジア)、筋肉の一部がひきつる(ジストニア)などです。こうした副作用を軽減する薬物を併用したり、薬物を減量したりすることで改善します。
薬物の随伴的な副作用
眠気、だるさ、立ちくらみ、口渇、便秘などです。薬物の種類や量を調整することで、軽減できる場合があります。
ごくまれだが重篤な副作用
悪性症候群(高熱、筋強剛、自律神経症状など)は、すみやかな治療が必要です。 よくある失敗は、副作用を恐れて自分の判断で薬を減量しているのに、そのことを主治医に伝えていない場合です。
処方した量の薬を服用しているものと考えている主治医がますます薬を増量する、という悪循環に陥ることになります。
リハビリテーション
統合失調症では、様々な症状のために家庭生活や社会生活に障害が生じます。
症状の改善だけではなく、日常生活におけるこうした障害の回復も治療の目標になります。
先に述べた薬物療法は、統合失調症により障害された機能の修復を図る治療です。こうした治療と並行して、障害を受けていない機能を生かすことで家庭生活や社会生活の障害を克服し、生きる意欲と希望を回復し、充実した人生をめざすのがリハビリテーションです。 リハビリテーションに用いられる方法は、病状や生活の状態により様々です。病気や薬についてよく知り、治療の参考にして再発を防ぎたいとの希望がある患者・家族のためには「心理教育」、回復直後や長期入院のために身の回りの処理が苦手となっている場合には生活自立のための取り組み、対人関係やコミュニケーションにおける問題が社会復帰の妨げとなっている場合には、認知行動療法の原理を利用した「生活技能訓練(Social Skills Training;SST)」、仕事における集中力・持続力や作業能力の回復をめざす場合には「作業療法」、対人交流や集団参加に自信がもてない場合には「デイケア」、就労のための準備段階としては「作業所」など、個々の患者さんの病状に合わせて利用していきます。
経過
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病気の経過は、前兆期・急性期・回復期・安定期に分けてとらえるとわかりやすいでしょう。
前兆期
前兆期は、急性期を前にして様々な症状が出現する時期です。精神症状としては、焦りと不安感・感覚過敏・集中困難・気力の減退などがあります。
うつ病や不安障害の症状と似ているため、初めての場合にはすぐに統合失調症とは診断できないことがあります。
また、不眠・食欲不振・頭痛など自律神経を中心とする身体の症状が出やすいことも特徴です。 初発の場合には、これだけで統合失調症を診断することはできませんが、再発を繰り返している場合には、前兆期の症状が毎回類似していることを利用すると、「不調の前ぶれ」として本人や周囲が早期発見するための手がかりにできます。
急性期
幻覚や妄想などの、統合失調症に特徴的な症状が出現する時期です。この幻覚や妄想は、患者本人にとっては不安・恐怖・切迫感などを強く引き起こすものです。そのため、行動にまで影響が及ぶことが多く、睡眠や食事のリズムが崩れて昼夜逆転の生活になったり、行動にまとまりを欠いたり、周囲とのコミュニケーションがうまくとれなくなったりなど、日常生活や対人関係に障害が出てきます。
回復期
治療により急性期が徐々に治まっていく過程で、現実感を取り戻す時期でもあります。
疲労感や意欲減退を覚えつつ、将来への不安と焦りを感じます。周囲からは結構よくなったように見えますが、本人としてはまだ元気が出ない時期ですので、辛抱強く待つ姿勢がよい結果を生みます。
安定期
回復期を経て、安定を取り戻す時期です。すっかり病前の状態へと戻れる場合もありますし、急性期の症状の一部が残存して取り除けない場合、回復期の元気がないような症状が続いてしまう場合などもあります。 こうした安定期が長く続き、リハビリテーションにより社会復帰を果たし、治癒へと向かう多くの患者さんがいます。
しかし、この状態から前兆期が再度始まり、再発を迎えてしまうことがあるのは残念なことです。
予後
長期の予後を検討すると、治癒に至ったり軽度の障害を残すのみなど良好な予後の場合が50~60%で、重度の障害を残す場合は10~20%であるとされています。
この数字は昔の治療を受けた患者さんのデータですので、新しく開発された薬と心理社会的ケアの進歩の恩恵を受けている現代の患者さんでは、よりよい予後が期待できます。
症状が現れてから薬物治療を開始するまでの期間(精神病未治療期間)が短いと予後がよいことが指摘されていますので、長期経過の面でも早期発見・早期治療が大切であることがわかります。
患者さんと家族や周囲の方へのアドバイス
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患者さんへの生活のアドバイス
患者さんにお願いしたいことは、主治医とよい関係を築いていただきたいということです。 統合失調症は、慢性に経過することが多い病気です。
短期間でなかなか病前のように回復しないことから、不安になったり待ちきれなくなったりし、病院を転々と変える場合が時々あります。 しかし、精神科の治療は個別性が高いものです。
医療者にとっては、その患者さんの病状の経過や薬物の効果を知っていればいるほど、またその患者さんの生活や家族について知っていればいるほど、その患者さんに合った治療が提供できます。
ですから、診断や治療に疑問や不安が生じた時に、すぐに主治医を変えてしまわないでください。まず主治医に質問や相談をしてみてください。
その答えに納得ができなければ、セカンドオピニオンを求めることもできます。
そうしたことを通じて主治医とよい関係を築き、統合失調症という病気に立ち向かうための仲間を増やしていくことが、よりよい治療へもつながっていきます。
家族や周囲の方へのアドバイス
治療の中心は本人と家族です。しかし精神科の病気は目に見えませんから、家族や周囲の方にとってはなかなか理解しにくいものです。
家族は「わからない」、本人は「わかってもらえない」というストレスを抱えることになりがちです。
病気についての理解が進むと、そうしたお互いのストレスが減ります。また、治療にどういう仕方で協力すればよいかがわかると、そのことが病状や経過によい影響を与えます。 本人・家族・医療関係者がみんなで医療チームを組み、統合失調症という病気に立ち向かえるのが理想です。
そこで、家族や周囲の方にお願いしたいことが4点あります。
病気とそのつらさを理解する
第1は、病気やそのつらさについて理解していただきたいということです。
患者さんがどんなことを苦しく感じるのか、日常生活で怠けやだらしなさと見えるものが実は病気の症状であること、を理解してもらえることは、患者さんにとってはこころ強いことです。
「気持ちがたるんでいるから病気になるんだ」といわれて理解してもらえないことは、患者さんにとってはつらいことです。
医療チームの一員になる
第2は、治療において医療チームの一員になっていただきたいということです。
家族のもつ大きな力を治療において発揮していただければ、回復もそれだけ促進されます。
すぐにできることとしては、診察に同伴して家庭での様子を主治医に伝える、薬ののみ忘れがないように気を配る、などがあります。
医師から処方された薬について、「薬を続けるとクセになってよくない」などというと、患者さんをとても迷わせてしまいます。
接し方を少し工夫する
第3は、患者さんへの接し方を少し工夫していただきたいということです。
患者さんは、対人関係に敏感になっており、そこからのストレスが再発の引き金のひとつとなる場合があります。
とくに患者さんが苦手なのは、身近な人から「批判的ないい方をされる」「非難がましくいわれる」、あるいは「オロオロと心配されすぎる」ことです(強すぎる感情表出)。
小さなことでも患者さんのよい面を見つけ、それを認めていることを言葉で表現する、困ったことについては、原因を探すのはひとまず脇に置いて、具体的な解決策を一緒に考える、という接し方が理想的です。
薬についてだけでなく、こうしたコミュニケーションにおいても、家族のもつ力が回復を促すことになります。
自分自身を大切にする
第4は、自分を大切にしていただきたいということです。
「親の育て方が悪かったから、こんな病気になった」と、自分を責めるご両親がいます。
しかし、これは医学的な事実ではありません。育て方のせいで、統合失調症を発症することはありません。
また「自分の生活をすべて犠牲にしても、治療にささげなければならない」と、献身的にがんばる方もいます。しかし、こうした努力を長続きさせるのは難しいことです。
患者さん自身にしても、周囲の方が自分を犠牲にするほどの献身をすると、かえって心理的な負担を感じてしまいます。 自分の人生と生活を大切にしてください。
そのうえで、治療への協力をお願いします。 しかしそれでも家族自身がつらい気持ちとなり、耐えにくい場合があるでしょう。そうした場合には、家族会に参加して同じような境遇の家族の方とつらさを語り合い、分かちあうことをお勧めします。家族会は、病院・保健所・地域など様々なところにあります。