【レプロミン】lepromin 加熱癩死菌を生理食塩液に浮遊させたもの.レプロミンを0.1 ml皮内注射し皮膚反応(レプロミン反応)をみることにより,個体の癩菌に対する細胞性免疫の状態が示される.
【レプロミン反応】=光田反応
【レプラ真珠】leprotic pearl →癩性ぶどう膜炎
(編者参考)
【象皮病】elephantiasis バンクロフト糸状虫,マレー糸状虫によって起こる代表的な症状で,バンクロフト糸状虫では下肢,外陰部,特に陰嚢に多くみられる.マレー糸状虫では症状は軽く,四肢に局在する.象皮病はリンパのうっ滞,結合組織の増生により永年の間に局所が肥大するもので,上皮の肥厚,疣贅形成,表皮の褐色,黒色の色素沈着などにより形成される.長い寄生期間を経て虫体は死滅し,石灰化するが,これにより皮下血管壁の特異な石灰沈着と血管の増殖変化などが起こり,象皮病の原因となる.象皮病患者では血液からミクロフィラリアを検出することは稀.
※この項はHNドン・キショットさんのご提供によるものです。深く感謝の意を表します
目次へ
【癩(らい)】[英leprosy 独Aussatz 仏lepre ラlepra, morbus hanseni]
(『南山堂 医学大辞典』1978年第16版,1983年7刷より)
[ウムラウトはじめ発音記号付き欧文等は印字できませんので赤字にしました]
抗酸性杆菌である癩菌による慢性伝染病で,皮膚と末梢神経系を好んで侵すが,内臓に重篤な病変をつくることはなく,経過は著しく長い.菌は粘膜から侵入する可能性も全く否定しえないが主として皮膚の創傷から侵入して感染する.しかし患者の膿,鼻汁,唾液などの長期,反復接触が必要で(家族感染濃厚)、器具などによる間接伝染はほとんどない(感染力が弱い).潜伏期は3〜5〜14年といわれ,成人よりも小児では短いとされている.患者(推定約320万)は偏在が目だち,インド,中央アフリカ,中国大陸が大部分を占め,東南アジア,中南米がこれに次ぎ,わが国では1966年,療養所に沖縄も含めて約11,000名が収容されているが,減少しつつある.病型は従来,症状により斑紋,神経および結節癩の3型(後2者の合併を混合癩lepra mixta)に分けられていたが,現在は臨床所見のほか塗沫による菌の有無,レプロミン反応*(光田反応)を参考とする第6回国際ライ会議(マドリッド,1953年)の分類ならびにこれに準ずる分類が広く用いられている.
1)癩腫型lepromatous type(以下L型と略記):身体各所に癩腫*が多発し,とくに顔面に好発して獅子顔(面)*を呈する.鼻・咽・喉粘膜の潰瘍,瘢痕のため呼吸困難をきたすこともある.眼が侵される(癩性パンヌス*)ほか,内臓,骨,リンパ節にも結節を生ずる.発症当初より知覚過敏,冷・温覚の倒錯,次いで麻痺し,運動障害をきたし,大耳,尺,橈骨など普通触知されない末梢神経が紡錘・円柱状に肥厚する.栄養障害により癩天疱瘡,潰瘍がみられ,混合感染して足底が穿孔し,指,趾が離断し(断節癩),筋肉が萎縮して,手掌が変形し(猿手,鳥爪手),癩性脱毛,発汗不全をきたす.組織は癩細胞*,癩球(癩菌がリンパ球につまったもの)を含み,リンパ球,形質細胞からなる肉芽腫で,局所より癩菌を証明しやすく,光田反応は陰性.
2)結核様癩Tuberculoid type(T):淡紅,紅褐,褐ないし黄色斑を孤立性,非対側性に生じ,一様にまたは辺縁のみ隆起し,中心治癒して環状ないし地図状を呈し,色素脱失の傾向がある(癩性白斑leukoderma leprosa).組織像は,リンパ球,類上皮細胞を主とする細胞浸潤が神経,毛包,汗・脂腺周囲にみられ,ときに神経,巨細胞に乾酪変性をみる.光田反応陽性で菌は証明しがたい.
3)未決定群indeterminate group(I):T型かL型かいずれに移行するか不明の最も初期の病変.知覚障害を伴う境界鮮明な紅ないし白斑で,組織は慢性非特異性炎症を呈し,光田反応は不定である.
4)境界群(中間型) borderline group(B):T型が再燃を繰り返すうちに生ずる斑で,一部はT型が吸収された部位を避けて周囲に帯状斑,板状斑を生じてL型に移行する.組織はT型とL型の中間像をとり,光田反応,菌ともに陽性である.知覚障害,神経肥厚,癩菌証明がそろえば本症を診断し,患者居住地の知事宛に封書で届出して,必要に応じて隔離収容する.大風子油のほか癩化学療法で治療し,変形には形成手術を行なう.
【レプロミン反応】[英lepromin reaction 独Leprominreaktion 仏reaction de lepromine]
癩腫*の抽出物を抗原として行なう皮内反応をいう.その抽出法に従ってレプリンLeprin反応(Babes),レプロリンLeprolin反応(Rost),光田反応(光田),レプロミンLepromin反応(Bargher)などと呼ばれていた.その後FernandezやDharmendraもそれぞれ新抽出法を考案した.これらに対しWaadeが,ツベルクリン*になぞらえてレプロミンと呼ぶべきことを提唱してから,この呼称が行なわれている.現在癩腫の生食抽出液である光田抗原とクロロホルムとエーテル抽出物のDharmendra抗原が常用される.レプロミン反応の判定は48時間と15日に行ない,その基準はほぼツベルクリン反応*のそれに等しい.本反応は癩腫癩患者には陰性,神経癩患者と健康者には陽性に反応する.
【癩(らい)化学療法】[英chemotherapy of leprosy 独Chemotherapie des Aussatzes 仏chimiotherapie de leper ラchemotherapia lepra] 従来の大楓子油にかわって癩化学療法が癩治療の主流となっている.Promin (4:4-diamino-diphenyl-sulfon N;-N-didextrose Na-sulfonate)は3%液を週6回,1回5 ml宛静注する.またDDS (diaminodiphenyl-sulfon)を分服し,1日30 mgより100〜150 mgまで増量する.他に化学療法剤としてdiason, sulphetrone, promizole, DDSO, サルファ剤(sulfomethoxpyridazin),チオウレア剤,抗結核剤のkanamycin, thisemicarbazoneなどが用いられている.しかし投与しやすく,安価なことからDDSの内服が繁用されている.副作用も貧血以外に重篤なものはなく,治療効果はすぐれ,皮疹は数ヵ月で著しく軽快する.癩菌も漸次顆粒状を呈し,減少していく.したがって,変形のみられぬ早期に,十分な化学療法がなされれば完全治癒を期待しうる.
【癩(らい)菌】[英Bacillus of leprosy 独Leprabacillus 仏bacille de leper ラMycobacterium leprae] Armauer Hansenが1871年に癩結節の組織内に集合して存在することを発見し,Bacillus lepraeと命名した菌.グラム陽性,抗酸性で非運動性の杆菌,培養はきわめて困難で,いまだ一般に認められている培養法はなく,また動物に対する病原性もきわめて弱く,動物体内でこの菌を増殖させ,継代培養を続けることは困難であるが,癩*の病原菌であると認められている.
【癩(らい)細胞】[英lepra cell 独Leprazellen 仏cellule lepreuse ラcellula leprae]
癩腫*は組織学的には組織球の集団である.個々の組織球の胞体は大形で明るく,核は比較的クロマチンに乏しく,広義の組織球の変化するもので,とくに癩細胞と呼ばれる.胞体はやがて脂肪変性し,全体が泡沫細胞foamy cell, Schaumzelle状態となり,空胞内にリポイドと多数の癩菌を含む.電子顕微鏡で種々の形のライソゾームをみるのが特徴.
【癩(らい)腫】[英ラleproma 独Leprom 仏leprome] 従来の結節癩に相当する癩腫.癩*の皮膚に生ずる丘疹ないし結節で,小豆大から鶏卵大の浸潤とともに,身体各所に多発することが多い.ほぼ対側性に生じ,淡紅色,紅黄色,紅褐色を呈することもあるが常色のものも多く,表面平滑で油っぽい,鈍い光沢をおびる.顔面では大きな結節が多数集合,融合して特徴ある粗大なヒダをつくる.⇒癩
【癩(らい)腫癩】⇒癩
【癩(らい)性天疱瘡】[英leprous pemphigus 独leproser Pemphigus 仏pemphigus lepreux ラpemphigus leprosus] 癩患者は知覚麻痺のため手足に熱傷を受けやすく,非常にしばしば水疱,潰瘍を形成する.そのほかおそらく栄養障害に基づき,摩擦などによっても水疱を形成し,深い場合は後に無力性潰瘍を残す.このような水疱を原因のいかんにかかわらず癩性天疱瘡と呼ぶ.外力を受けやすい部位に好発し,粘膜にもみられる.
【癩(らい)性白斑】[仏leucodermie lepreuse ラleukoderma leprosum] 癩患者の皮膚にみられる脱色斑で,初期の唯一の徴候たる場合もあるが,しばしば炎症性発疹の吸収後に生ずる.癩性白斑はその形態,大きさ,色調は種々,境界は多くは不鮮明,尋常性白斑のごとく完全脱色斑でない.白色人種では見いだしがたく,黄色人種ですらときに見過ごされる.しかし該斑に一致して知覚麻痺の証明される場合には容易に癩性と診定される.特に紅斑で囲繞された病型では周辺暈に知覚異常,中心部白斑に知覚麻痺を認めるが,往々知覚異常を伴わない場合もある.該斑における発汗機能がおおむね減弱するために表皮が乾燥して粗 の感を呈し,健常な皮膚光沢を示さない点が有力な鑑別資料となる.
【癩(らい)性パンヌス】[英leprous pannus 独leproser Pannus 仏pannus lepreux ラpannusu leprosus] パンヌスとは血管新生を伴う表在性角膜浸潤で,癩(L型)のそれは浸潤が上部から下方に進み,病巣は表面よりやや膨隆し,象牙様の色調を帯びる.表在性またはDescement膜の直下に好発し,吸収後も混濁あるいは点状の陥凹を残すこともある.L型では他に表層び漫性角膜炎,角膜実質炎などが頻発,粘膜にも浸潤や結節をみる.
【猿〔の〕手】[英ape hand 独Affenhand 仏main de singe] 正中神経麻痺*に際して現われる手の特有の状態.すなわち母指が屈曲および外転不能なり,また小指と対向接触しがたくなり,他の指と同一平面上にくる.これは母指球の筋肉が麻痺するためで,なお?および?虫様筋,深指屈筋橈側の麻痺により示指の屈曲,ことに基節の屈曲が不可能となる.時日が経過すると筋萎縮を合併して猿手様となるが、同時に尺骨神経麻痺を伴うと特に著しい.
※この項はHNドン・キショットさんのご提供によるものです。深く感謝の意を表します
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【ハンセン病 癩 らい lepra】(ネットで百科の「世界大百科事典」より)
(注意:この項は少なくとも2001.03.06以後更新されていません。内容が古いことをご承知おきください)
癩菌による慢性伝染病。 レプラまたはハンセン病Hansen's disease ともいう。
日本では以前〈かったい〉〈なりんぼ〉などという俗称も使われていた。
癩菌は抗酸菌の 1 種で,1874 年ノルウェーのA.G.H.ハンセンによって発見された。
幅 0.2 〜 0.4μm,長さ 2 〜 7μmの杆菌で,抗酸菌染色により赤く染まる。
酸やアルカリに対して抵抗が強い。菌が多数集まって癩球と呼ばれる塊となる傾向がある点が,
同じ抗酸菌である結核菌との形態的差異として重要である。
分裂速度が遅く,世代時間は 10 〜 31 日と考えられている。
培養はまだ不可能であるが,動物接種はマウスやラットの足底で成功したのに引きつづき,
最近アルマジロ,ヌードマウスなどにも接種できるようになった。
癩菌は皮膚の小さい傷から侵入し,皮膚の中の神経を通って人体内で徐々に増殖するため,
潜伏期は 3 年から 10 年以上に及ぶものと考えられている。
[癩の疫学]
感染源としては皮膚病変分泌物や鼻汁が主であるが,感染は起こりにくい。
非衛生的な環境が発病を促進する。性別では男女比 2 〜 3 対 1 で男に多い。
中世ヨーロッパで広く流行がみられたが, 19 世紀に入って激減し,
現在は中央アフリカ,インド,東南アジア,南アメリカなどを中心に,
世界中で約 1000 万人の患者がいると推定されている。
日本では九州,沖縄地方に多く約 9000 人に達するが,多くは高齢者であって,減少しつつある。
[症状]
主として皮膚と末梢神経が侵される。皮膚では斑紋や結節,紅斑などがみられ,
知覚麻痺を伴い,大耳介神経,尺骨神経,橈骨(とうこつ)神経,腓骨神経などが
紡錘形や数珠状に肥厚する。類結核型,癩腫型,両者の中間に当たる境界群,
初期の未定型群と四つに分けられる。未定型群では軽い知覚異常を伴った淡い紅斑
または不完全白斑を生ずる。類結核型では紅色の斑紋を生じ,知覚麻痺がはっきりしている。
斑紋には癩菌はほとんど見当たらず,マクロファージが増殖して結核性肉芽組織に似た組織像を呈する。
末梢神経の肥厚や手や足の変形が起こりやすい。神経麻痺のために栄養障害を生じ,
手では母指球,小指球の筋肉が萎縮し,猿手や鷲手などの形をとるほか,
進行すれば指先が落ちることもある。足底には治りにくい潰瘍 (足穿孔(せんこう)症) を生じる。
癩腫型は半球状をした大小の結節を全身各所に多数生じるもので,
多量の癩菌を含んでいるため感染源として注意が必要である。
真皮の中に菌の充満したマクロファージが集合している。
これは空泡様に変性して泡沫細胞とも形容される。肝臓,睾丸,リンパ節,骨なども侵され,喉頭,気管が侵されると声がかれる。眼では角膜潰瘍や虹彩炎から失明にいたる。
癩腫型の患者に化学療法剤を用いると癩性結節性紅斑,俗にいう〈熱こぶ〉を起こす。
[診断]
皮膚症状,神経症状を詳しく検査したうえで,病巣や鼻粘膜から癩菌の塗抹標本を作る。
病型の決定に重要なレプロミン反応 (光田反応) は,癩結節をすりつぶして滅菌した液
(レプロミン) を皮内に注射し, 3 週後に硬結をつくれば陽性と判定する。正常の成人,
類結核型患者では陽性,正常の乳幼児,癩腫型や境界群の患者では陰性を呈する。
[治療]
ジアミノジフェニルスルフォンなどのスルフォン剤の内服がよく効き,初期ならば完全に治癒する。
リファンピシンも有効であり,どちらも長年継続する必要がある。癩性結節性紅斑には
ランプレン (商品名) が用いられるほかサリドマイドもよいといわれる。
顔面や手足の変形は手術やリハビリテーションによってかなり回復できる。
治療は日本に十数ヵ所ある癩療養所でおもに行われている。
[予防]
従来は隔離が唯一の予防法であったが,現在では患者に接触して感染の可能性のある人に対して,
BCG 接種やスルフォン剤の予防的内服が用いられる。
肥田野 信
【レプロミン反応】=光田反応
【レプラ真珠】leprotic pearl →癩性ぶどう膜炎
(編者参考)
【象皮病】elephantiasis バンクロフト糸状虫,マレー糸状虫によって起こる代表的な症状で,バンクロフト糸状虫では下肢,外陰部,特に陰嚢に多くみられる.マレー糸状虫では症状は軽く,四肢に局在する.象皮病はリンパのうっ滞,結合組織の増生により永年の間に局所が肥大するもので,上皮の肥厚,疣贅形成,表皮の褐色,黒色の色素沈着などにより形成される.長い寄生期間を経て虫体は死滅し,石灰化するが,これにより皮下血管壁の特異な石灰沈着と血管の増殖変化などが起こり,象皮病の原因となる.象皮病患者では血液からミクロフィラリアを検出することは稀.
※この項はHNドン・キショットさんのご提供によるものです。深く感謝の意を表します
目次へ
【癩(らい)】[英leprosy 独Aussatz 仏lepre ラlepra, morbus hanseni]
(『南山堂 医学大辞典』1978年第16版,1983年7刷より)
[ウムラウトはじめ発音記号付き欧文等は印字できませんので赤字にしました]
抗酸性杆菌である癩菌による慢性伝染病で,皮膚と末梢神経系を好んで侵すが,内臓に重篤な病変をつくることはなく,経過は著しく長い.菌は粘膜から侵入する可能性も全く否定しえないが主として皮膚の創傷から侵入して感染する.しかし患者の膿,鼻汁,唾液などの長期,反復接触が必要で(家族感染濃厚)、器具などによる間接伝染はほとんどない(感染力が弱い).潜伏期は3〜5〜14年といわれ,成人よりも小児では短いとされている.患者(推定約320万)は偏在が目だち,インド,中央アフリカ,中国大陸が大部分を占め,東南アジア,中南米がこれに次ぎ,わが国では1966年,療養所に沖縄も含めて約11,000名が収容されているが,減少しつつある.病型は従来,症状により斑紋,神経および結節癩の3型(後2者の合併を混合癩lepra mixta)に分けられていたが,現在は臨床所見のほか塗沫による菌の有無,レプロミン反応*(光田反応)を参考とする第6回国際ライ会議(マドリッド,1953年)の分類ならびにこれに準ずる分類が広く用いられている.
1)癩腫型lepromatous type(以下L型と略記):身体各所に癩腫*が多発し,とくに顔面に好発して獅子顔(面)*を呈する.鼻・咽・喉粘膜の潰瘍,瘢痕のため呼吸困難をきたすこともある.眼が侵される(癩性パンヌス*)ほか,内臓,骨,リンパ節にも結節を生ずる.発症当初より知覚過敏,冷・温覚の倒錯,次いで麻痺し,運動障害をきたし,大耳,尺,橈骨など普通触知されない末梢神経が紡錘・円柱状に肥厚する.栄養障害により癩天疱瘡,潰瘍がみられ,混合感染して足底が穿孔し,指,趾が離断し(断節癩),筋肉が萎縮して,手掌が変形し(猿手,鳥爪手),癩性脱毛,発汗不全をきたす.組織は癩細胞*,癩球(癩菌がリンパ球につまったもの)を含み,リンパ球,形質細胞からなる肉芽腫で,局所より癩菌を証明しやすく,光田反応は陰性.
2)結核様癩Tuberculoid type(T):淡紅,紅褐,褐ないし黄色斑を孤立性,非対側性に生じ,一様にまたは辺縁のみ隆起し,中心治癒して環状ないし地図状を呈し,色素脱失の傾向がある(癩性白斑leukoderma leprosa).組織像は,リンパ球,類上皮細胞を主とする細胞浸潤が神経,毛包,汗・脂腺周囲にみられ,ときに神経,巨細胞に乾酪変性をみる.光田反応陽性で菌は証明しがたい.
3)未決定群indeterminate group(I):T型かL型かいずれに移行するか不明の最も初期の病変.知覚障害を伴う境界鮮明な紅ないし白斑で,組織は慢性非特異性炎症を呈し,光田反応は不定である.
4)境界群(中間型) borderline group(B):T型が再燃を繰り返すうちに生ずる斑で,一部はT型が吸収された部位を避けて周囲に帯状斑,板状斑を生じてL型に移行する.組織はT型とL型の中間像をとり,光田反応,菌ともに陽性である.知覚障害,神経肥厚,癩菌証明がそろえば本症を診断し,患者居住地の知事宛に封書で届出して,必要に応じて隔離収容する.大風子油のほか癩化学療法で治療し,変形には形成手術を行なう.
【レプロミン反応】[英lepromin reaction 独Leprominreaktion 仏reaction de lepromine]
癩腫*の抽出物を抗原として行なう皮内反応をいう.その抽出法に従ってレプリンLeprin反応(Babes),レプロリンLeprolin反応(Rost),光田反応(光田),レプロミンLepromin反応(Bargher)などと呼ばれていた.その後FernandezやDharmendraもそれぞれ新抽出法を考案した.これらに対しWaadeが,ツベルクリン*になぞらえてレプロミンと呼ぶべきことを提唱してから,この呼称が行なわれている.現在癩腫の生食抽出液である光田抗原とクロロホルムとエーテル抽出物のDharmendra抗原が常用される.レプロミン反応の判定は48時間と15日に行ない,その基準はほぼツベルクリン反応*のそれに等しい.本反応は癩腫癩患者には陰性,神経癩患者と健康者には陽性に反応する.
【癩(らい)化学療法】[英chemotherapy of leprosy 独Chemotherapie des Aussatzes 仏chimiotherapie de leper ラchemotherapia lepra] 従来の大楓子油にかわって癩化学療法が癩治療の主流となっている.Promin (4:4-diamino-diphenyl-sulfon N;-N-didextrose Na-sulfonate)は3%液を週6回,1回5 ml宛静注する.またDDS (diaminodiphenyl-sulfon)を分服し,1日30 mgより100〜150 mgまで増量する.他に化学療法剤としてdiason, sulphetrone, promizole, DDSO, サルファ剤(sulfomethoxpyridazin),チオウレア剤,抗結核剤のkanamycin, thisemicarbazoneなどが用いられている.しかし投与しやすく,安価なことからDDSの内服が繁用されている.副作用も貧血以外に重篤なものはなく,治療効果はすぐれ,皮疹は数ヵ月で著しく軽快する.癩菌も漸次顆粒状を呈し,減少していく.したがって,変形のみられぬ早期に,十分な化学療法がなされれば完全治癒を期待しうる.
【癩(らい)菌】[英Bacillus of leprosy 独Leprabacillus 仏bacille de leper ラMycobacterium leprae] Armauer Hansenが1871年に癩結節の組織内に集合して存在することを発見し,Bacillus lepraeと命名した菌.グラム陽性,抗酸性で非運動性の杆菌,培養はきわめて困難で,いまだ一般に認められている培養法はなく,また動物に対する病原性もきわめて弱く,動物体内でこの菌を増殖させ,継代培養を続けることは困難であるが,癩*の病原菌であると認められている.
【癩(らい)細胞】[英lepra cell 独Leprazellen 仏cellule lepreuse ラcellula leprae]
癩腫*は組織学的には組織球の集団である.個々の組織球の胞体は大形で明るく,核は比較的クロマチンに乏しく,広義の組織球の変化するもので,とくに癩細胞と呼ばれる.胞体はやがて脂肪変性し,全体が泡沫細胞foamy cell, Schaumzelle状態となり,空胞内にリポイドと多数の癩菌を含む.電子顕微鏡で種々の形のライソゾームをみるのが特徴.
【癩(らい)腫】[英ラleproma 独Leprom 仏leprome] 従来の結節癩に相当する癩腫.癩*の皮膚に生ずる丘疹ないし結節で,小豆大から鶏卵大の浸潤とともに,身体各所に多発することが多い.ほぼ対側性に生じ,淡紅色,紅黄色,紅褐色を呈することもあるが常色のものも多く,表面平滑で油っぽい,鈍い光沢をおびる.顔面では大きな結節が多数集合,融合して特徴ある粗大なヒダをつくる.⇒癩
【癩(らい)腫癩】⇒癩
【癩(らい)性天疱瘡】[英leprous pemphigus 独leproser Pemphigus 仏pemphigus lepreux ラpemphigus leprosus] 癩患者は知覚麻痺のため手足に熱傷を受けやすく,非常にしばしば水疱,潰瘍を形成する.そのほかおそらく栄養障害に基づき,摩擦などによっても水疱を形成し,深い場合は後に無力性潰瘍を残す.このような水疱を原因のいかんにかかわらず癩性天疱瘡と呼ぶ.外力を受けやすい部位に好発し,粘膜にもみられる.
【癩(らい)性白斑】[仏leucodermie lepreuse ラleukoderma leprosum] 癩患者の皮膚にみられる脱色斑で,初期の唯一の徴候たる場合もあるが,しばしば炎症性発疹の吸収後に生ずる.癩性白斑はその形態,大きさ,色調は種々,境界は多くは不鮮明,尋常性白斑のごとく完全脱色斑でない.白色人種では見いだしがたく,黄色人種ですらときに見過ごされる.しかし該斑に一致して知覚麻痺の証明される場合には容易に癩性と診定される.特に紅斑で囲繞された病型では周辺暈に知覚異常,中心部白斑に知覚麻痺を認めるが,往々知覚異常を伴わない場合もある.該斑における発汗機能がおおむね減弱するために表皮が乾燥して粗 の感を呈し,健常な皮膚光沢を示さない点が有力な鑑別資料となる.
【癩(らい)性パンヌス】[英leprous pannus 独leproser Pannus 仏pannus lepreux ラpannusu leprosus] パンヌスとは血管新生を伴う表在性角膜浸潤で,癩(L型)のそれは浸潤が上部から下方に進み,病巣は表面よりやや膨隆し,象牙様の色調を帯びる.表在性またはDescement膜の直下に好発し,吸収後も混濁あるいは点状の陥凹を残すこともある.L型では他に表層び漫性角膜炎,角膜実質炎などが頻発,粘膜にも浸潤や結節をみる.
【猿〔の〕手】[英ape hand 独Affenhand 仏main de singe] 正中神経麻痺*に際して現われる手の特有の状態.すなわち母指が屈曲および外転不能なり,また小指と対向接触しがたくなり,他の指と同一平面上にくる.これは母指球の筋肉が麻痺するためで,なお?および?虫様筋,深指屈筋橈側の麻痺により示指の屈曲,ことに基節の屈曲が不可能となる.時日が経過すると筋萎縮を合併して猿手様となるが、同時に尺骨神経麻痺を伴うと特に著しい.
※この項はHNドン・キショットさんのご提供によるものです。深く感謝の意を表します
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【ハンセン病 癩 らい lepra】(ネットで百科の「世界大百科事典」より)
(注意:この項は少なくとも2001.03.06以後更新されていません。内容が古いことをご承知おきください)
癩菌による慢性伝染病。 レプラまたはハンセン病Hansen's disease ともいう。
日本では以前〈かったい〉〈なりんぼ〉などという俗称も使われていた。
癩菌は抗酸菌の 1 種で,1874 年ノルウェーのA.G.H.ハンセンによって発見された。
幅 0.2 〜 0.4μm,長さ 2 〜 7μmの杆菌で,抗酸菌染色により赤く染まる。
酸やアルカリに対して抵抗が強い。菌が多数集まって癩球と呼ばれる塊となる傾向がある点が,
同じ抗酸菌である結核菌との形態的差異として重要である。
分裂速度が遅く,世代時間は 10 〜 31 日と考えられている。
培養はまだ不可能であるが,動物接種はマウスやラットの足底で成功したのに引きつづき,
最近アルマジロ,ヌードマウスなどにも接種できるようになった。
癩菌は皮膚の小さい傷から侵入し,皮膚の中の神経を通って人体内で徐々に増殖するため,
潜伏期は 3 年から 10 年以上に及ぶものと考えられている。
[癩の疫学]
感染源としては皮膚病変分泌物や鼻汁が主であるが,感染は起こりにくい。
非衛生的な環境が発病を促進する。性別では男女比 2 〜 3 対 1 で男に多い。
中世ヨーロッパで広く流行がみられたが, 19 世紀に入って激減し,
現在は中央アフリカ,インド,東南アジア,南アメリカなどを中心に,
世界中で約 1000 万人の患者がいると推定されている。
日本では九州,沖縄地方に多く約 9000 人に達するが,多くは高齢者であって,減少しつつある。
[症状]
主として皮膚と末梢神経が侵される。皮膚では斑紋や結節,紅斑などがみられ,
知覚麻痺を伴い,大耳介神経,尺骨神経,橈骨(とうこつ)神経,腓骨神経などが
紡錘形や数珠状に肥厚する。類結核型,癩腫型,両者の中間に当たる境界群,
初期の未定型群と四つに分けられる。未定型群では軽い知覚異常を伴った淡い紅斑
または不完全白斑を生ずる。類結核型では紅色の斑紋を生じ,知覚麻痺がはっきりしている。
斑紋には癩菌はほとんど見当たらず,マクロファージが増殖して結核性肉芽組織に似た組織像を呈する。
末梢神経の肥厚や手や足の変形が起こりやすい。神経麻痺のために栄養障害を生じ,
手では母指球,小指球の筋肉が萎縮し,猿手や鷲手などの形をとるほか,
進行すれば指先が落ちることもある。足底には治りにくい潰瘍 (足穿孔(せんこう)症) を生じる。
癩腫型は半球状をした大小の結節を全身各所に多数生じるもので,
多量の癩菌を含んでいるため感染源として注意が必要である。
真皮の中に菌の充満したマクロファージが集合している。
これは空泡様に変性して泡沫細胞とも形容される。肝臓,睾丸,リンパ節,骨なども侵され,喉頭,気管が侵されると声がかれる。眼では角膜潰瘍や虹彩炎から失明にいたる。
癩腫型の患者に化学療法剤を用いると癩性結節性紅斑,俗にいう〈熱こぶ〉を起こす。
[診断]
皮膚症状,神経症状を詳しく検査したうえで,病巣や鼻粘膜から癩菌の塗抹標本を作る。
病型の決定に重要なレプロミン反応 (光田反応) は,癩結節をすりつぶして滅菌した液
(レプロミン) を皮内に注射し, 3 週後に硬結をつくれば陽性と判定する。正常の成人,
類結核型患者では陽性,正常の乳幼児,癩腫型や境界群の患者では陰性を呈する。
[治療]
ジアミノジフェニルスルフォンなどのスルフォン剤の内服がよく効き,初期ならば完全に治癒する。
リファンピシンも有効であり,どちらも長年継続する必要がある。癩性結節性紅斑には
ランプレン (商品名) が用いられるほかサリドマイドもよいといわれる。
顔面や手足の変形は手術やリハビリテーションによってかなり回復できる。
治療は日本に十数ヵ所ある癩療養所でおもに行われている。
[予防]
従来は隔離が唯一の予防法であったが,現在では患者に接触して感染の可能性のある人に対して,
BCG 接種やスルフォン剤の予防的内服が用いられる。
肥田野 信