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流行地域[編集]
狂犬病清浄国(緑色の地域、2010年)日本の厚労大臣が指定する狂犬病清浄地域とは異なっていることに注意
南極を除く全ての大陸で感染が確認されている。流行地域はアジア、南米、アフリカで、全世界では毎年50,000人以上が死亡している。
日本の厚生労働大臣が指定する狂犬病清浄地域は、日本、英国(グレート・ブリテン島及び北アイルランドに限る)・アイルランド・アイスランド・ノルウェー・スウェーデン・ハワイ・グァム・フィジー・オーストラリア・ニュージーランドと非常に少ない。
なお、フィジーについては、2011年現在、狂犬病は発生していないものの、輸入検疫制度が十分でないとの懸念がある。
アメリカ疾病予防管理センターにより土着の例が報告されなかった国や地域は、 カーボベルデ、リビア、モーリシャス、レユニオン、サントメ・プリンシペ、セイシェル、バミューダ、サンピエール・ミクロン島、アンティグア・バーブーダ、アルバ、バハマ、バルバドス、ケイマン諸島、ドミニカ、グアドループ、ジャマイカ、マルティニーク、モントセラト、オランダ領アンティル、セントクリストファー(セントクリストファー)・ネーヴィス、セントルシア、セント・マーチン、セントビンセントおよびグレナディーン諸島、タークス・カイコス諸島、バージン諸島、香港、日本、クウェート、レバノン、マレーシア(サバ)、カタール、シンガポール、アラブ首長国連邦、オーストリア、ベルギー、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、ジブラルタル、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、マン島、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン(セウタとメリリャを除く)、スウェーデン、スイス、イギリス、オーストラリア、クック諸島、フィジー、仏領ポリネシア、グアム、ハワイ、キリバス、ミクロネシア、ニューカレドニア、ニュー
ジーランド、北マリアナ諸島、パラオ、パプアニューギニア、サモア、バヌアツ、となっている。
インド[編集]
インドは約30,000人と世界で最も狂犬病による死者が多く、ワクチンによる治療を受ける人も年間で100万人に上る。
インド国内での動物咬傷事故の90%以上はイヌ(その大部分は野犬)によるもので、主なウイルス保有宿主もイヌだが、サル、ウシ、ウマ、ネコ、ヤギ、ネズミ、ウサギなどからもウイルスが分離されている。
台湾[編集]
2013年、台湾中部の野生のシナイタチアナグマが狂犬病に感染していたことを確認した。
中国[編集]
中国では、ペット、食用犬などで1億5千万頭の犬が飼われているがその殆どが未登録犬で、さらにその数倍の野犬が生息している。
近年の経済発展に伴いペットを飼う人が増えて飼犬も増加したが、狂犬病予防接種の実施率は0.5%と防疫効果がまったく期待できない低水準であり、また室内犬を除いては放し飼いが一般的である。
それに伴って毎年約3000名(中国衛生部によると2006年は3207名)が狂犬病により死亡するなど、特に都市部での狂犬病被害が激増しており、2005年には国内伝染病による死者数の20%を占めた。
中国政府は2008年の北京オリンピックに向けて撲滅に躍起になっていた経緯があり、2006年7月、雲南省牟定県では蔓延する狂犬病の対策として予防接種済み犬を含む全ての愛玩・食用・野生犬、約50,000頭を殺処分をする政策を取った(軍用犬・警察犬を除く)。
処分の補償金はわずか5元で、処分の方法も殆どが撲殺であり、飼い主の目の前で処分したり飼い主自ら処分したりするよう命令し、従わない場合は処罰するなど強権的な措置に全世界から非難が殺到した。
中国衛生部の統計によれば、2006年9月の1か月間で、中国では319名が狂犬病を発病して死亡した。
同年1月から9月にかけての死者も2200名を超え、5月から9月にかけては中国における感染症死亡者数の第1位となって大流行した。
2007年上半期(1 - 6月)の統計でも発症者が1395名、死者が1136名と状況は変わっていない。
また、2008年の四川大地震によって多くの飼犬が野犬化しており、噛傷被害を受けた被災者も増加しているが、ワクチンが無く、傷を洗って消毒するだけで帰している状況のために今後狂犬病の被害が拡大する可能性があるとの見方もあり、青川県では地震によって野犬化した犬の殺処分を行うことが決定された。
2008年1月、すべての犬に狂犬病予防接種を義務づけた。
2008年の狂犬病による死者は2478名。
北米[編集]
人への感染は年間数名だが、スカンク、コウモリ、アライグマ、キツネなどの野生動物で毎年6,000 - 8,000件、ネコで200 - 300件、イヌで20 - 30件の狂犬病報告がある。
ニューヨーク市内では毎年10〜30匹の感染動物が確認されており、2006年8月には人を噛んだネコから狂犬病ウイルスが検出されたとしてニューヨーク市保健精神衛生局が注意喚起情報を発した。
南米[編集]
伝播動物としてはイヌやコウモリが多い。
チスイコウモリからウシやウマなど家畜への感染が多く、その経済的損失が問題となっている。
欧州[編集]
人の死亡例は年間数十名。
経口ワクチン入りの餌で野生のアカギツネからの伝播は減少したが、その他の野生動物の感染は増えている。
中東[編集]
バーレーン- なし
イスラエル- あり
クウェート- なし
オマーン- あり
カタール- なし
サウジアラビア- あり
アラブ首長国連邦- なし
イエメン- あり
アフリカ[編集]
イヌ科やマングース科の構成種からの感染例が報告されている。
日本の狂犬病[編集]
日本国内では江戸時代の1732年に長崎で発生した狂犬病が全国に伝播した記録などが残されている。
明治時代となってからも各地で発生が確認されており、1897年からは公式な記録が残される様になった。
1923年からの3年間には全国で9,000頭以上が感染。
1950年の狂犬病予防法施行による飼い犬の登録とワクチン接種の義務化、徹底した野犬の駆除によって1956年以来、犬、ヒト、共に狂犬病の発生はない。
ただし、犬による咬傷事故が届出だけで毎年6,000件以上報告される現状で、犬への狂犬病ワクチンの接種率は近年低下しており、厚生労働省の調査による2007年度の登録頭数は約674万頭、接種率75.6%だが、同年のペットフード工業会の全国調査による犬の飼育頭数は約1,252万2,000頭であり、これから割り出される未登録犬も含めた予防注射実施率は約40%と、流行を防ぐために必要とされるWHOガイドラインの70%を遥かに下回っている。
国内で感染する可能性がなくなったわけではない。
接種しなかった場合は狂犬病予防法により罰金刑などが科される可能性がある(後述)。
日本における対処[編集]
現在の日本においては狂犬病予防法により、予防、感染発生時の対処、蔓延防止の手段などが定められている。
狂犬病予防法はイヌに適用されるほか(狂犬病予防法2条1項1号)、狂犬病を人に感染させるおそれが高いものとして政令で定める動物にも適用される(狂犬病予防法2条1項2号)。
政令ではネコ、アライグマ、キツネ、スカンクにも狂犬病予防法を適用することとしている(狂犬病予防法施行令1条)。
発病後の治療法が存在しない以上、狂犬病は感染の予防そのものが最も重要な病気である。
そのため、日本国内でイヌ等への感染が獣医師によって確認された場合には狂犬病予防法第8条、9条により、患畜の速やかな届出と隔離が義務づけられている。
隔離されたイヌ等は狂犬病予防法第11条により狂犬病予防員(首長が任命した獣医師)の許可を受けなければ殺してはならないが、狂暴化するなど人命への危険や隔離が困難であるなど緊急やむを得ないときは殺すことを妨げないとされている。
また、まん延を防止するため予防員による発生区域での一斉検診および予防接種(同13条)が行われたり、イヌ等について移動制限がかけられたりする場合もある(同15条)。
これら狂犬病の撲滅およびまん延の防止にかかわる条項違反については罰則が定められている。
一方、ウシなど法律・政令で定められた特定の動物の狂犬病については家畜伝染病として家畜伝染病予防法の適用を受ける。
家畜伝染病予防法では、ウシ、ウマ、ヒツジ(綿羊)、ヤギ、ブタが指定されており(家畜伝染病予防法2条)、家畜伝染病予防法施行令で、水牛、シカ、イノシシが追加されている(家畜伝染病予防法施行令1条)。
これらの動物が狂犬病に感染した場合には、患畜として家畜伝染病予防法第17条に基づき殺処分命令が出されることとなる。
命令が発せられた場合には当該患畜の所有者・管理者はこれを受け入れ、速やかに処分を実施しなければならない。
この家畜伝染病予防法に基づく殺処分命令の権限は都道府県知事が持つ。
なお、狂犬病は人獣共通感染症であることから、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)で四類感染症に指定されている(感染症法6条5項5号)。
近年における日本での発生状況[編集]
国内での感染が確認されなくなって以降、日本で狂犬病が発症した事例は3件でともに日本国外での感染である。
一つは1970年にネパールを旅行中の日本人旅行者が現地で犬に咬まれ、帰国後に発病・死亡した事例。
残り2例はいずれも2006年に京都府在住および神奈川県(2年前からフィリピン滞在)の60代の男性2人がフィリピン滞在中に犬に噛まれたことが原因で狂犬病を発症し、2人とも死亡した事例である。
日本への再侵入の危険性[編集]
犬に限らず狂犬病に感染している動物がペットとして海外から日本へ持ち込まれる可能性は常にある。
また、狂犬病以外の人獣共通感染症に感染した動物がペットとして日本に輸入される可能性もあり、近年の愛玩動物の輸入増加とともに問題視されている。
海外の事例として、2003年にボリビアにおいて狂犬病に感染した状態でペルーから輸入されたハムスターが人を噛む事故が発生している。
2003年に日本に輸入されたハムスターだけでも約50万匹に上っている。
厚労省は輸入動物を原因とする人畜共通感染症の発生を防ぐため、2005年9月1日から「動物の輸入届出制度」を導入した。
狂犬病流行地ロシアとの貿易が多い北海道では、ロシア船からの不法上陸した犬の存在が確認されており危険視されている。
一方、狂犬病行政の問題としては日本では犬以外のペット(特に狂犬病ワクチンの適応対象となっている猫)に対する狂犬病などの予防注射が法で義務化されていない事が挙げられる。
さらには平時の野犬や野生動物の狂犬病ウイルス(または抗体)保有状況調査に至ってはほぼ皆無と言えるほど貧弱なことなども再侵入監視上の問題として指摘されているが、農水省、環境省、厚労省の3省連携が障壁となっており改善されていないと述べる識者もいる。
関連法規[編集]
狂犬病予防法
家畜伝染病予防法
感染症法
脚注[編集]
^ 世界保健機関:HUMAN AND ANIMAL RABIES
^ 世界保健機関:Media centre - Rabies
^ 狂犬病、源宣之(岐阜大学農学部 獣医公衆衛生学講座)
^ Neighbor‐Joining 法によるリッサウイルスの系統樹、国立感染症研究所 感染症情報センター
^ リッサウイルス感染症検査マニュアル、国立感染症研究所
^ 臓器移植による狂犬病感染の調査、2004年 - 米国、国立感染症研究所 感染症情報センター、IASR(病原微生物検出情報月報)Vol.25 No.11 (No.297) 2004年11月号
^ 厚生労働省:狂犬病に関するQ&A
^ 栄研化学株式会社:モダンメディア 2005年51巻7号 - 狂犬病について (PDF)
^ 狂犬病を発症後回復した1例、2004年−米国・ウィスコンシン州、国立感染症研究所 感染症情報センター
^ Girl survives rabies without jab、BBC NEWS、2004年11月25日
^ 狂犬病からの生還 R.E.ウィルビー、日経サイエンス2007年7月号
^ 秋田大学バイオサイエンス教育・研究センター:動物とヒトとのかかわり -特に医学において動物実験が果たした役割-(2)
^ 狂犬病の発生状況2013年7月17日更新 厚生労働省
^ Infectious Diseases Related To Travel
^ 厚生労働省 福岡検疫所 資料
^ “台湾:狂犬病52年ぶり確認 イタチアナグマが感染” (2013年7月18日).2013年8月1日閲覧。
^ “南投でも狂犬病のイタチアナグマ発見、台湾全土で12例め” (2013年7月29日).2013年8月1日閲覧。
^ AFPBB News:犬の登録と予防接種で狂犬病対策、未登録の犬は1億5000万匹も 中国、2008年7月9日
^ 在中国日本国大使館:狂犬病について 〜ペット・野生動物に咬まれたら、症状が無くても直ちに医療機関へ〜、2006年11月27日
^ 日経ビジネスオンライン:中国で最も危険な伝染病は「狂犬病」、2007年1月26日
^ 四川大地震:被災地で下痢患者増加、狂犬病の恐れも、サーチナ、2008年5月19日
^ レコードチャイナ:<四川大地震>野良犬化した犬をすべて処分 青川県、2008年5月19日
^ 日本獣医師会:狂犬病対策について2012年6月29日閲覧
^ 海外安全ホームページ 安全対策基礎データ アメリカ合衆国
^ Stray Kitten Tests Positive for Rabies in Huguenot Area of Staten Island : Press Release : NYC DOHMH
^ わが国における犬の狂犬病の流行と防疫の歴史
^ 日本獣医師会:狂犬病対策について (PDF)
^ 厚生労働省:都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数等
^ ペットフード工業会:2008年ペットフード工業会ニュース 第14回犬猫飼育率全国調査
^ 国際感染症学会 ProMED-mail:RABIES, HAMSTER - BOLIVIA EX PERU: ALERT (PDF)、2003年1月6日
^ 厚生労働省:健康:結核・感染症に関する情報 - 動物等取扱業者のための野兎病Q&A
^ 厚生労働省:動物の輸入届出制度について
^ 不法上陸犬の対応について (PDF)、厚生労働省検疫所、狂犬病予防等技術研修会(平成14年度)
参考文献[編集]
日本内科学会雑誌 第96巻 第11号 2007年 2400-2405
畜産の研究 第62巻・第2号 「北京オリンピックと狂犬病」小野嘉隆
関連項目[編集]
予防接種
動物咬傷
検疫
街上毒
固定毒
暴露後免疫
外部リンク[編集]
厚生労働省 狂犬病について
外務省 海外安全ホームページ(感染症関連情報)
海外勤務者のための医療・衛生情報(狂犬病) 独立行政法人労働者健康福祉機構海外勤務健康管理センター
国立感染症研究所感染症情報センター
IDWR:感染症の話(狂犬病)、2003年第18週号、IDWR(感染症発生動向調査週報)
IASR 28-3 病原微生物検出情報月報2007年3月号、IASR(病原微生物検出情報月報)
国立感染症研究所ウイルス第一部
狂犬病Q&A
社団法人日本獣医師会
狂犬病などの共通感染症
狂犬病リンク集
わが国における犬の狂犬病の流行と防疫の歴史、人と動物の共通感染症研究会