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2. 『ブラック・レイン』(Black Rain)

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概要・撮影背景[編集]

概要[編集]

映画『ブレードランナー』で日本の映画ファンに広く知られるようになったリドリー・スコット監督の作品であり、日本側のキャスティング担当者とロケーションアレンジャーの恩恵で外国映画の中でよく見受けられる「おかしな日本像」はそれほど無く、比較的まともな描写がなされている。

松田優作は、この映画の撮影の時点ですでに癌に侵されていたが、病をおして撮影に臨んだ(癌の事実を知っていたのは安岡力也のみだった)。

しかし、映画公開直後に急死してしまい、この映画がもとで親交を深めたチャーリー役のアンディ・ガルシアは彼の死を悼んだ。

この作品制作中の評判で松田優作の次回作はロバート・デ・ニーロ出演、ショーン・コネリー監督作品のオファーが来ていた。

なお、題名の『ブラック・レイン(Black Rain)』とは、原爆投下や空襲によって起こる煤混じりの雨を指している(作中、菅井が大阪空襲後の黒い雨に纏わる因縁をニックに語る)。

菅井はアメリカが戦後日本人にもたらした個人主義が、義理人情の価値観を喪失した佐藤のようなアウトローを産んだと暗にアメリカ人を批判し、「黒い雨」という言葉を象徴的に用いる。

同年公開の邦画『黒い雨』の様に戦争をストーリーの中心に据えた映画ではない。


撮影の背景[編集]

ストーリー中盤の製鉄所のシーンで、早朝に製鉄所の制服に身を包んだ作業員達が、大挙して自転車で作業場へと向かう風景が描かれている。

中国と混同しているのではないかと言われるこの場面に関してリドリー・スコットは、バイクを追跡するも道を阻まれ苛立つシーケンスを演出するために意図的に設定した場面であり、決して中国と混同したものではないと語っている(「キネマ旬報」インタビューより)。

製鉄所などの広大な敷地をもつ作業所内では自転車の利用は珍しくないが、現実には連絡バスや自動車の利用も多く、出退勤時に自転車であふれかえるような光景は見られない。

リドリー・スコットは『ブレードランナー』で描かれていたような雑多で猥雑なイメージを日本に求めていたが、実際の日本はかなり清潔な街並みであったために驚いたという。

そのためにロケーションはそれらを満たすであろう新宿歌舞伎町を当初予定地に挙げていた。

撮影にあたっては、日本側の警察による交通規制の協力がほとんど得られない事情からロケ地調整に苦労した。

当初の監督の希望ロケーションは東京新宿歌舞伎町であったが、警察との折衝の結果不可能となり、比較的警察協力の融通が利く大阪、関西方面に変更された。

10週間の撮影を計画したものの、各所で期待した協力が得られなかったために5週間で切り上げて帰国した。撮影できなかった部分は後述のとおり米国で行った。

ラストシーンのニックと佐藤の一戦の舞台であるブドウ畑農場は、日本国内という設定ではあったが日本の農地の風景ではない。

アメリカの裕福な日本文化マニアの外国人の私有地(サンフランシスコ郊外ということが『SmaSTATION6』の松田優作特集で公表された)を借りて撮影された。山林の中に立っている標識の漢字は外国人が適当に書いたもので場所が国外ということを分からせてくれる。

また、このシーンで登場する佐藤が乗ったメルセデス・ベンツSクラス(ケーニッヒによる派手なカスタマイズである)は、ダミーの「大阪」ナンバーをつけたアメリカ仕様車である。

他にも強制送還されるニックが飛行機から抜け出す空港のシーン、チャーリーが佐藤一味に殺される地下駐車場のシーン、クラブ・ミヤコのシーン、佐藤のアジトシーンもアメリカや香港で撮影されている(後者2つについては主要キャスト以外の日本人が英語訛りの日本語を話しているためそれがわかる)。

ケイト・キャプショーの登場場面のほとんどは米国で、カメラの切り替えでいかにも大阪でロケを行っているように見せている。

唯一日本で撮影したシーンが使われているのは、今はなき心斎橋(地名ではなく橋の名前)の上でホームレスの男性に「これでパンでも買って」というシーンである。

加えて菅井宅は『ブレードランナー』のデッカード宅と同じロサンゼルスのエニス・ブラウン邸である(特徴的なフランク・ロイド・ライト作のブロック壁で判別可能)。

佐藤の愛人をニックと松本が尾行するシーンは神戸で撮影されている。

神戸ナンバーの車だらけの中、佐藤の部下、梨田が乗ったタクシーだけは「なにわ」ナンバーだった。

銀行の支店や駅に「元町」と表示されている(撮影に使われた銀行の出入り口は旧協和銀行元町支店で、統廃合され現存しない)。

明らかに神戸市バスとわかるバスが映っている。

意味不明な街頭演説の音声(「社会党の今村マサコでございます…」と聞き取れる)が流れているが、なぜか英語訛りがある。

ラストシーンでニックが佐藤の生死を決定しようとするシーンがあるが、これは当初、死闘の末に逮捕される脚本であったが、途中から追加されたチャーリー弄り殺しシーンなどから次第に悪者感が増し、脚本を変更して最後に殺される筋書きに変更された。

変更された脚本では尖った杭に倒され串刺しになりながらも不敵に笑いを浮かべて死んで行くと言うものであった。

しかし続編を制作する企画が持ち上がり、殺されずに逮捕されるパターンへエンディングを変更することになった。

なお、串刺しにされるシーンはクランクアップ後一年経過してから追加撮影の依頼があり、半ば呆れながら松田は『もう気持ちはあの時から切れているので』と断ったそうだ(いずれも「プレイボーイ」誌、松田優作インタビューより)。

以上の経緯からニックが佐藤を殺す構想上のパターン(シナリオでは「バイクの後輪に頭を押し込んで殺す」)と、最終的に採用された殺さずに警察に連行されるパターンがある。

警察に連行されるシーンは上映版では杭をカメラフレームに収めたカットから警察署内の扉を開ける場面に切り替わるが、第一試写版では警察署内の廊下を通過して階段を上がり扉を開ける流れが撮影され、終始ふてぶてしい笑顔を浮かべる佐藤が収録されており、一般公開前のプレス用資料には、これらの場面スチルが配布されていた。

米国のスタッフを驚かせた逸話として、佐藤がバイクに乗るシーンは全てスタント無しで松田優作本人が演じたことが挙げられる。

しかし松田は一連の「遊戯シリーズ」にてスタントを全て本人がこなしており、松田はこれを当然と考えており、自分のやり方が正しかったと後に述懐している(「プレイボーイ」誌、松田優作インタビューより)。

佐藤がバイクに乗るシーンで着用しているゴーグル風のサングラスは日本側で調達された1987年のジャン=ポール・ゴルチエ製コレクションである。

市販モデルは平面レンズタイプであったが、レンズに映り込む光を複雑にしたいと監督から要請があり、球面レンズに交換された。

大阪府警の機動隊員はジュラルミンの楯ではなく、狙撃用のライフルを持っていた。

ラストの空港のシーンで、松本がニックに「お子さんに」と渡す箱の包装は、当時関西圏で中堅の玩具チェーン店「いせや」の物であるので、中身は玩具と想像できる。

公開当時、いせや常連客の間で話題になり、問い合わせがよくあったという。

ちなみに逆にニックが松本に渡した箱の包装は阪急百貨店の物である(Hankyuの英字ロゴが確認できる)。


キャスティングについて[編集]

ホテル内でスコット監督と行われた佐藤役のオーディションには、決定した松田優作の他に、萩原健一、根津甚八、遠藤憲一、小林薫、田代まさし、世良公則などが参加していた(「プレイボーイ」誌インタビューより)。

このオーディションで松田優作は、自分で締めていたネクタイを外し、それを手錠に見立て手首に結び本番さながらの迫真の演技を披露し佐藤役を獲得した。

松田は当初、一次審査(書類選考)の時点で落とされていたが日本側のスタッフが、松田がそのようなレベルの役者ではないとアメリカ側のスタッフを説得し実現したものだった。

萩原流行もオーディションを受けたが意中の役は射止められなかった。

その際、松本刑事の部下役で打診されたが丁重に断った。

しかし、松本役が高倉健だと後で知って後悔したと日本テレビ『カミングダウト』で語っている。

元々は『海と毒薬』をベルリン映画祭で見たプロデューサーが主演の奥田瑛二に佐藤役を打診したが、本作と同時期に公開された『千利休 本覺坊遺文』との撮影スケジュールが合わず、断ったため、オーディションが行われた(山口猛著『松田優作 炎静かに』より)。

木村祐一もオーディションを受けたがすぐに終わり、落選した。

木村によると島木譲二はパチパチパンチをやって合格したらしい(『ダウンタウンDX』2007年12月13日放送分より)。

先述の木村同様、今田耕司もオーディションに参加しており、当時会社命令で他の吉本芸人ともどもオーディションを受けるも本人は乗り気でなく、オーディション中も自身の質問に対し、コメディアンである事を伝えると外国人スタッフから「コメディアンなら何か面白い事をやってみろ」と要求されるも外国人に自分のギャグを披露しても伝わるわけがないと思った今田が「いや、ボクは別にいいです」と答えたところ、質問したスタッフが不思議そうな表情を浮かべながら「お前はチャンスがいらないのか?」と云われた。

クランクイン前に、マイケル・ダグラスと親交を結んだ坂本龍一に、高倉健演じる松本正博役をやらないかというオファーがあった。

坂本は、「脚本を読んだら、自分ではなくて、勝新太郎のような渋い俳優がやるべきだと思った」とのことである。

坂本の曲はニックと菅井が「クラブみやこ」で目を合わせるシーンに使用され、サントラにも収録されている。

なお、マイケル・ダグラスは日本人の殺人鬼を演じないかとジャッキー・チェンに言ってきたが、この映画はアジア人を悪く見せたし、ファンが悪者を演じる僕を見たがるとも思わなかった。(自伝“IAM JACKIE CHAN”より)と出演を断ったようである。

この作品のロケを見学していた浪花会とロンサムロードのメンバーが、監督から映画出演を依頼された。


使用車両について[編集]

尾行などで乗ったタクシーはすべて「日本タクシー」である。

スタッフが移動に使った車はほとんどが「さくらタクシー」である。

アメリカ映画ユニオンの規定により俳優1人につきキャンピングカー1台を用意する必要があったため、日本中のレンタルキャンピングカーが集められ、ロケ現場には全国のナンバーが付いたキャンピングカーが集結した。

アメリカ映画ユニオンの規定によりあたたかい物が食べられるケータリング車が必要であったが、当時の日本にはあまりそういったものがなかったため、縁日などにある「屋台」がロケ現場に用意され、スタッフは撮影時間中いつでも、うどん、やきそば、たこ焼き、飲み物などが用意され、外国人スタッフにはサンドイッチなどが用意された。

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