? 諸外国等におけるテロリズムの定義
1 米 国
1988年のアメリカ陸軍による研究によれば、これまで、 テロリズムには100以上の定義付けが行われているという。
現在では、 1988年当時から、 十数年を経過し、 その数はさらに増加しているに違いない。
参考までに、 これまで発表された幾つかの例を挙げる。
? 合衆国法典規則 (第28編第0.85条)
「政治的又は社会的目的を促進するべく、 政府、 市民又は階層を威嚇又は強制するため、 人や財産に対し不法に軍事力及び暴力を使用すること」
? 米国中央情報局 (CIA)
「確立された政治権力に賛成であれ、 反対であれ、 政治的目的のため、 個人又は集団によって行われる脅迫若しくは暴力行為であって、 直接の犠牲者より大きな目標グループに衝撃を与え、 若しくは威嚇することを意図する行為(13)」
? 米国連邦捜査局 (FBI)
「政治的又は社会的な目的を促進するため、政府、 国民又は他の構成部分を威嚇し、 強要するべく、 人又は財産に対して向けられた不法な武力又は暴力の行使(14)」
? 1986年副大統領のタスクフォース
「テロリズムとは、 これまで以上の政治的、社会的目的のために、 人や財産に対して不法な暴力の行使又は暴力の威嚇を行うことをいう。通常、 政府、 個人、 集団を威嚇又は強制すること、 又はそれらの行動又は政策を変更させることを意図している(15)」
米国国務省の 『国際テロリズムの動向 2003(16)』によれば、 「普遍的に認められたテロリズムの定義はない」 とされている。
しかし、 文書をとりまとめるためには、 何らかの基準が必要なことから、 「米国政府は、 1983年から、 テロリズムの統計および分析を行うため、 合衆国法典第22編第2656f条に規定されているテロリズムの定義を採用して」 いるという。
レファレンス 2005.1042
拙稿 「アメリカのテロ対策」 『レファレンス』 422号, 1986.3, p.106.
Hearings on Domestic Security Measures Relating to Terrorism Before the Subcommitee on Civil and Consitutional Right of Committee on Judiciary, House of Representatives, 98th Congress, February 8 and 9.Jury.1986. pp.25-26. Definition of Terrorism, Wikipedia, the free encyclopedia.of-terrorism> U.S.Department of State, Pattern of Global Terrorism-2003, p.8.pgtrpt/2003/31880.htm>
同条は次のように規定されている。
第2656f条
テロリズムという言葉は、 通常、 一般大衆(audience) に影響を与えることを意図し、 準国家的集団 (subnational group) 又は秘密の代理人による、 非戦闘員を標的とし、 事前に計画された政治的な動機を持つ暴力をいう。
国際テロリズムという言葉は、 一カ国以上の市民及び領土を巻き込んだテロリズムをいう。
テロリスト集団という言葉は、 国際テロリズムを実行する、 又は国際テロリズムを実行する下位集団を持つ、 すべての集団を意味する。
しかし、 2001年9月11日同時多発事件の発生した13日後、 ブッシュ大統領は、 大統領命令13224号(17) を発し、 その3条においてテロリズムを次のように定義付けている。
暴力行為、 又は人命、 財産若しくは施設にとって危険な行為を含む。
次のいずれかを意図することが明らかに認められる場合、民間人を脅迫し、 又は威圧すること脅迫又は威圧により政府の政策に影響を与えること
大量破壊、 暗殺、 誘拐又は人質行為を行うことにより政府の行動に影響を与えること
合衆国連邦議会も2001年10月25日、 いわゆる「愛国者法」 を制定した。
定義については、 合衆国法典第18編第2331条を改正して、 次のような定義を行っている(18)。
「国際テロリズム(international terrorism)」とは、 次の活動をいう。
暴力行為若しくは人命に危険を及ぼす行為であって、 合衆国若しくは州の刑法の違反となり、 又は合衆国若しくは州の裁判管轄地内で行われたときは犯罪行為となるものに関わる活動、次のいずれかを意図することが明らかに認められる活動
民間人を脅迫し、 又は威圧すること
脅迫又は威圧により政府の政策に影響を与えること
大量破壊、 暗殺又は略取誘拐により政府の行動に影響を与えること、 かつ、実行の手段、 脅迫若しくは威圧の対象とされていることが明白に認められる者、 又はその実行犯が活動し、 若しくは潜伏先を探し求めている場所の観点から、 主として合衆国の領域的管轄権の外で、 又は国境を超えて生起する活動
(中略)
「国内テロリズム (domestic terrorism)」 とは、 次の活動をいう。
人命に危険を及ぼす行為であって、 合衆
国又は州の刑法の違反となるものに関わる行為、次のいずれかのことを意図することが明らかに認められる活動
民間人を脅迫し、 又は威圧すること
脅迫又は威圧により政府の政策に影響
を与えること
大量破壊、 暗殺又は略取誘拐により政
府の行動に影響を与えること、
主に合衆国の領域的裁判管轄権の内で行
われる活動以上から、 米国の政府による定義では、 「テロリズム」 とは、 民間人を脅迫又は威圧して政府の行動等へ影響を与えることであると考えられる。
レファレンス 2005.10
テロリズムの定義43
Executive Order No.13224, 66 Fed Reg, 49 079, September 23.2001.
翻訳は、 土屋恵司 「合衆国法典第18編 犯罪及び刑事手続 第1部 犯罪第113B章 テロリズム」 『外国の立法』 第215号, 2003.2, p.2.による。
2 英 国
英国のテロ対策は、 「1974年テロリズム防止法」 に基づき、 随時これを改正しながらテロ対策を行ってきた。
2000年には、 いくつかのテロリズム対策法を一つの法律にまとめて、 新たに「2000年テロリズム法(19)」 を制定した。
この中で 「テロリズム」 は次のように定義されている。
「第1条 この法律において 「テロリズム」 とは、 以下の行動を行うこと又は以下の行動を行うと脅迫することを意味する。
第項の範囲内の行動であって行動又は脅迫が政府に影響を与えること、又は民間人若しくはある階層の民間人を脅えさせること、 及び行動又は脅迫が政治的、 宗教的又はイデオロギー的要因を進展させる目的で行われること
本項に定める以下の行動
人に対する重大な暴力を含む。
財産に対する重大な損害を含む。
その行動を行った者以外の人の生活を危険にさらす。
民間人又はある階層の民間人の健康又は安全に対し重大な危険を作り出す。
電子システムの重大な妨害又は重大な中断を企図する。
火器や爆発物の使用が第項の条件を満足させるテロリズムであるかどうかを含め、第項の範囲内で行い又は行うと脅迫すること
本条において
「行動」 とは、 連合王国の外での行動を含む。
「人」 又は 「財産」 とは、 いかなる場所に位置する 「人」 又は 「財産」 でもこれを含む。
「民間人」 とは、 連合王国以外の国の民間人を含む。
「政府」 とは、 連合王国の政府、 連合王国の一部を形成する政府、 連合王国以外の国の政府を意味する。
本法において、 テロリズムの目的で行われる行動とは、 禁止された組織の利益のために行われる行動を含む。」
テロリズムに関するこれらの定義は、 2001年9月11日の同時多発事件以降に制定された各種のテロ対策法の中でも、 改正されていない。
しかし、 本年 (2005年) 7月7日、 ロンドンで発生した同時多発テロリズムの後、 政府は、野党の保守党、 自由民主党と会談し、 本年10月に議会に提出する予定の 「反テロリズム法案」の大枠について同意を得た。
この法案には、 新たな犯罪として、 ? 間接的にテロリズムを扇動すること、 ? 海外のテロリスト訓練場等において、 テロリズムを実行するための訓練を行うこと又は受けること、 ? インターネット等から、 爆弾製造をはじめ危険物質を扱うための知識を得ることが含まれる予定という(20)。
3 EU
2001年9月11日の同時多発テロの影響を受けて、 欧州理事会は 「テロ対策のための2002年6月13日の枠組決定」 を採択した。
施行は2002年6月22日である。
その目的は、 EU加盟各国のテロ対策を一定の水準以上に引き上げることにあった。
枠組決定の第1条は、 テロリズムの定義を規定して、 次のように定めている。
レファレンス 2005.1044
Ben Golder and George Williams "WHAT IS TERRORISM? PROBREMS OF LEGAL DEFINITION",UNSW Law Journal, vol.27No.2 (August 2004), pp.279-280.
国立国会図書館調査及び立法考査局海外立法情報調査室・課 「ロンドン同時多発テロに関する各国の反応」『外国の立法 立法情報・翻訳・解説』 特別号, 2005.8.1, p.6. (事務用資料)
「各加盟国は、 以下に列記した、 各国の法規に従って犯罪と定義された故意の行為が国民を脅かし、 政府機関若しくは国際機関に作為若しくは不作為を違法に強制し、 又は一国若しくは国際機関の政治的、 憲法的、 経済的、 社会的な基本構造の不安定化若しくは破壊を目的として行われた場合、 テロリスト犯罪として位置付けられるよう必要な措置をとる。」 と規定し、 その後に、 人を死に至らしめうる攻撃、 人の身体の完全性に対する攻撃、 誘拐又は人質、 などの犯罪を列挙している(21)。
4 フランス
フランスのテロリズムについての重要な法律として、 1986年に制定された 「テロリズム及び国家の安全に関する1986年9月9日の法律」、1991年の 「電信の方法で発せられ、 伝達され、受け取られた個人の通信の傍受に関する1991年7月10日の法律」、 1996年の 「テロリズムの抑圧に関する1996年7月22日の法律」、 「テロリズムの事件において夜間の条件つきの拘留及び捜索に関する1996年12月30日の法律」、 2001年の「日常生活の安全に関する2001年11月13日の法律」、 および2003年の 「国内の安全に関する2003年3月18日の法律」 などがある。
これらの法律は、 特にテロリズムについての定義づけを行っていない。
定義らしきものが見られるのは刑法である。
フランス刑法典は、 1994年に改正され、 テロ行為について第421-1条という独立の条文を設けた。
現在、 第421-1条のテロリズムに関する規定には、 次のものが含まれている。
?威嚇又は恐怖によって公の秩序を著しく妨げる目的をもって企てられた、 生命、 人身の完全性を損なう行為、 誘拐、 人質をとる行為、航空機、 船舶等の輸送手段の奪取(22)
?窃盗、 強要、 財産の破壊、 商品の損壊、 一定のコンピュータ関連犯罪(23)
?戦闘集団を組織すること。 戦闘集団とは、 武器を携帯し、 階層的な組織を持ち、 公の秩序を乱す恐れのある集団をいう。
?致死性の又は爆発性のエンジン又は機械を製造又は保有すること
?前述の犯罪の成果を受け取ること
?インサイダー取引
?マネーロンダリング (資金洗浄)
また、 421-2条は 「人又は動物を害する性質の物質を大気中、 地上、 地下又は水系に放出すること」 をテロリズムとして処罰している(24)。
5 ドイツ
1970年代、 1980年代にかけての極左過激派集団対策、 そして9.11同時多発事件以降の国際テロ対策等、 ドイツは多くの対テロ対策を行ってきたが、 「テロリズム」 という言葉が何を意味するかということについては、 最近まで規定がなかった。
2003年に刑法の改正が行われ、 第129a条において、 テロリズムの概念が規定されている。
ドイツ刑法第129a条は、 「テロリスト団体編成の罪」 を見出しとしている。
同条は次のように規定されている。
第129a条
レファレンス 2005.10
テロリズムの定義45
渡辺斉志 「ドイツ:テロリスト犯罪規定を改正するための法律案−EU法の国内法化」 『外国の立法』 218号,2003.11, p.151.
只木誠 「フランス新刑法の研究・6 刑法各則」 『法律時報』 66, 1994.12, pp.89-90.
?から?については、 次の文献から和訳した。 Stephanie Dagron "Country Report on France" Christian Walter. et al., Terrorism as a Challenge for National and International Law:Security versus Liberty,New York:Springer, 2003, pp.269-270. Ibid., p.270.
第1項 以下の罪を目的とし、 又はそのような罪を犯す団体を編成し、 又はこれに参加した者は、 1年以上10年以下の自由刑に処す。
・謀殺罪、 故殺罪、 民族謀殺罪、 人間性に対する罪、 戦争犯罪・恐喝的人身奪取罪、 人質罪
第2項 以下の各号に掲げた罪を犯すことを目的とし、 又はそのような罪を犯す団体を編成した者は、 第1項と同様の刑に処す。
1 他人に対し、 身体的又は精神的な損害を与えること
2 放火、 失火、 溢水、 軌道・船舶・航空交通に対する危険行為、 公共の経営の妨害、 航空交通及び海上交通に対する攻撃等の罪
3 毒物の解放による重大な危険を招く罪の場合における環境に対する罪
4 ABC兵器や対人地雷の製造の罪
5 火器の不法な所有・製造等の罪
また、 上述したような団体に参加した者も、 上記1−5の犯罪の一が以下の行為にあてはまる場合、 又はその行為により国家や国際機関が著しく害される場合は、 第1項と同様の刑に処す。
・民衆を重大な方法で脅かすこと。
・官庁や国際機関に対し、 暴力や暴力を伴う脅迫によって強制を加えること。
・国家又は国際機関の政治的・憲法的・経済的・社会的な基本構造を不安定化させ、又は破壊すること(25)。
第129a条第1項と第2項の前段までは、 テロ行為を類型化したものであるが、 第2項後段の 「民衆を重大な方法で脅かすこと」 以下は、前述の 「? さまざまなテロリズムの定義」 の中で述べられているテロの概念を説明していると考えられるだろう。
6 日 本
公安調査庁は 『国際テロリズム要覧』 1998年刊の中で、 テロリズムを次のように定義している。
「テロリズムとは、 国家の秘密工作員又は国内外の結社、 グループが、 その政治目的の遂行上、 当事者はもとより当事者以外の周囲の人間に対してもその影響力を及ぼすべく、 非戦闘員またはこれに準ずる目標に対して計画的に行われる不法な暴力の行使をいう」
「国際テロリズムとは、 2カ国以上の市民又は地域の絡んだテロリズムをいう。本質的には、 ある一国に本拠を置きながら、 他の国で作戦行動を行うグループの活動をいい、 外国に対して国家の支持の下に行われるテロリズムから種々のテロ組織相互間の協力関係に至るまで、 現代の世界で起こるいろいろな事柄を意味する。
テロリズムは次の場合に 「国際的」 となる。
?外国人または外国の目標に向かう場合
?一国以外の政府または党派と連携する場合
?外国政府の政策への影響を狙う場合」
以上、 諸外国等の国内法又は政府によるテロリズムの定義を取りまとめると次のようになる。
テロリズムとは、 ある定義では、 もっぱら市民を標的とする暴力行為を意味している。
別の定義では、 政治的、 宗教的、 イデオロギー的な目標を達成するため、 恐怖を作り出すことを目的として暴力を行うこと又は暴力の威嚇を行うことを意味している。
後者の定義づけによれば、 市民、 公務員、 軍人、 政府の利益のために従事している人々を含むあらゆる人間は、 誰でもテロリストの行為の標的となりうる。
レファレンス 2005.1046
渡辺 前掲論文, p.155.
以上から、 ここで取り上げた諸国等において、テロリズムとは、 直接の暴力のみでは目的を達成できないテロリストが、 威嚇又は恐怖を植えつけることを通じて、 政府へ圧力をかけるための恐喝の一形態として使用され得るものと考えられる。
このような定義から、 テロリズムの構成要素として、 以下の事項を挙げることができる。
第一に、 政治的な目的の存在が挙げられる。
前記 『国際テロリズム要覧』 は政治的目的として、 以下の9項目を挙げている。
?王権の獲得
?政権の奪取
?政治的・外交的優位の獲得
?政権の攪乱・破壊
?報復
?通常戦争の補完・代替・補助
?逮捕・収監された構成員の釈放及び救出
?活動資金の獲得
?自己宣伝
第二に、 衝撃、 戦慄、 恐怖、 威嚇あるいは急変による注意の喚起が挙げられる。
社会には、 秩序と安全への渇望があって、暴力的威圧を規制する決まりや境界が作られている。
この境界を越えると、 衝撃が生まれる。
防御不能のものを攻撃するというテロ特有の行為は、 社会における不安感を劇的なまでに増大させる(26)。
このような騒動や異常は、 人々の興味をひきつけるために必要とされている。
第三に、 暴力の行使があることが挙げられる。
恐怖心を喚起させる方法として、 何らかの暴力を伴う。
このほか、 非合法性や、 行為の組織性、 計画性を挙げる意見もある(27)。
1 米 国
1988年のアメリカ陸軍による研究によれば、これまで、 テロリズムには100以上の定義付けが行われているという。
現在では、 1988年当時から、 十数年を経過し、 その数はさらに増加しているに違いない。
参考までに、 これまで発表された幾つかの例を挙げる。
? 合衆国法典規則 (第28編第0.85条)
「政治的又は社会的目的を促進するべく、 政府、 市民又は階層を威嚇又は強制するため、 人や財産に対し不法に軍事力及び暴力を使用すること」
? 米国中央情報局 (CIA)
「確立された政治権力に賛成であれ、 反対であれ、 政治的目的のため、 個人又は集団によって行われる脅迫若しくは暴力行為であって、 直接の犠牲者より大きな目標グループに衝撃を与え、 若しくは威嚇することを意図する行為(13)」
? 米国連邦捜査局 (FBI)
「政治的又は社会的な目的を促進するため、政府、 国民又は他の構成部分を威嚇し、 強要するべく、 人又は財産に対して向けられた不法な武力又は暴力の行使(14)」
? 1986年副大統領のタスクフォース
「テロリズムとは、 これまで以上の政治的、社会的目的のために、 人や財産に対して不法な暴力の行使又は暴力の威嚇を行うことをいう。通常、 政府、 個人、 集団を威嚇又は強制すること、 又はそれらの行動又は政策を変更させることを意図している(15)」
米国国務省の 『国際テロリズムの動向 2003(16)』によれば、 「普遍的に認められたテロリズムの定義はない」 とされている。
しかし、 文書をとりまとめるためには、 何らかの基準が必要なことから、 「米国政府は、 1983年から、 テロリズムの統計および分析を行うため、 合衆国法典第22編第2656f条に規定されているテロリズムの定義を採用して」 いるという。
レファレンス 2005.1042
拙稿 「アメリカのテロ対策」 『レファレンス』 422号, 1986.3, p.106.
Hearings on Domestic Security Measures Relating to Terrorism Before the Subcommitee on Civil and Consitutional Right of Committee on Judiciary, House of Representatives, 98th Congress, February 8 and 9.Jury.1986. pp.25-26. Definition of Terrorism, Wikipedia, the free encyclopedia.of-terrorism> U.S.Department of State, Pattern of Global Terrorism-2003, p.8.pgtrpt/2003/31880.htm>
同条は次のように規定されている。
第2656f条
テロリズムという言葉は、 通常、 一般大衆(audience) に影響を与えることを意図し、 準国家的集団 (subnational group) 又は秘密の代理人による、 非戦闘員を標的とし、 事前に計画された政治的な動機を持つ暴力をいう。
国際テロリズムという言葉は、 一カ国以上の市民及び領土を巻き込んだテロリズムをいう。
テロリスト集団という言葉は、 国際テロリズムを実行する、 又は国際テロリズムを実行する下位集団を持つ、 すべての集団を意味する。
しかし、 2001年9月11日同時多発事件の発生した13日後、 ブッシュ大統領は、 大統領命令13224号(17) を発し、 その3条においてテロリズムを次のように定義付けている。
暴力行為、 又は人命、 財産若しくは施設にとって危険な行為を含む。
次のいずれかを意図することが明らかに認められる場合、民間人を脅迫し、 又は威圧すること脅迫又は威圧により政府の政策に影響を与えること
大量破壊、 暗殺、 誘拐又は人質行為を行うことにより政府の行動に影響を与えること
合衆国連邦議会も2001年10月25日、 いわゆる「愛国者法」 を制定した。
定義については、 合衆国法典第18編第2331条を改正して、 次のような定義を行っている(18)。
「国際テロリズム(international terrorism)」とは、 次の活動をいう。
暴力行為若しくは人命に危険を及ぼす行為であって、 合衆国若しくは州の刑法の違反となり、 又は合衆国若しくは州の裁判管轄地内で行われたときは犯罪行為となるものに関わる活動、次のいずれかを意図することが明らかに認められる活動
民間人を脅迫し、 又は威圧すること
脅迫又は威圧により政府の政策に影響を与えること
大量破壊、 暗殺又は略取誘拐により政府の行動に影響を与えること、 かつ、実行の手段、 脅迫若しくは威圧の対象とされていることが明白に認められる者、 又はその実行犯が活動し、 若しくは潜伏先を探し求めている場所の観点から、 主として合衆国の領域的管轄権の外で、 又は国境を超えて生起する活動
(中略)
「国内テロリズム (domestic terrorism)」 とは、 次の活動をいう。
人命に危険を及ぼす行為であって、 合衆
国又は州の刑法の違反となるものに関わる行為、次のいずれかのことを意図することが明らかに認められる活動
民間人を脅迫し、 又は威圧すること
脅迫又は威圧により政府の政策に影響
を与えること
大量破壊、 暗殺又は略取誘拐により政
府の行動に影響を与えること、
主に合衆国の領域的裁判管轄権の内で行
われる活動以上から、 米国の政府による定義では、 「テロリズム」 とは、 民間人を脅迫又は威圧して政府の行動等へ影響を与えることであると考えられる。
レファレンス 2005.10
テロリズムの定義43
Executive Order No.13224, 66 Fed Reg, 49 079, September 23.2001.
翻訳は、 土屋恵司 「合衆国法典第18編 犯罪及び刑事手続 第1部 犯罪第113B章 テロリズム」 『外国の立法』 第215号, 2003.2, p.2.による。
2 英 国
英国のテロ対策は、 「1974年テロリズム防止法」 に基づき、 随時これを改正しながらテロ対策を行ってきた。
2000年には、 いくつかのテロリズム対策法を一つの法律にまとめて、 新たに「2000年テロリズム法(19)」 を制定した。
この中で 「テロリズム」 は次のように定義されている。
「第1条 この法律において 「テロリズム」 とは、 以下の行動を行うこと又は以下の行動を行うと脅迫することを意味する。
第項の範囲内の行動であって行動又は脅迫が政府に影響を与えること、又は民間人若しくはある階層の民間人を脅えさせること、 及び行動又は脅迫が政治的、 宗教的又はイデオロギー的要因を進展させる目的で行われること
本項に定める以下の行動
人に対する重大な暴力を含む。
財産に対する重大な損害を含む。
その行動を行った者以外の人の生活を危険にさらす。
民間人又はある階層の民間人の健康又は安全に対し重大な危険を作り出す。
電子システムの重大な妨害又は重大な中断を企図する。
火器や爆発物の使用が第項の条件を満足させるテロリズムであるかどうかを含め、第項の範囲内で行い又は行うと脅迫すること
本条において
「行動」 とは、 連合王国の外での行動を含む。
「人」 又は 「財産」 とは、 いかなる場所に位置する 「人」 又は 「財産」 でもこれを含む。
「民間人」 とは、 連合王国以外の国の民間人を含む。
「政府」 とは、 連合王国の政府、 連合王国の一部を形成する政府、 連合王国以外の国の政府を意味する。
本法において、 テロリズムの目的で行われる行動とは、 禁止された組織の利益のために行われる行動を含む。」
テロリズムに関するこれらの定義は、 2001年9月11日の同時多発事件以降に制定された各種のテロ対策法の中でも、 改正されていない。
しかし、 本年 (2005年) 7月7日、 ロンドンで発生した同時多発テロリズムの後、 政府は、野党の保守党、 自由民主党と会談し、 本年10月に議会に提出する予定の 「反テロリズム法案」の大枠について同意を得た。
この法案には、 新たな犯罪として、 ? 間接的にテロリズムを扇動すること、 ? 海外のテロリスト訓練場等において、 テロリズムを実行するための訓練を行うこと又は受けること、 ? インターネット等から、 爆弾製造をはじめ危険物質を扱うための知識を得ることが含まれる予定という(20)。
3 EU
2001年9月11日の同時多発テロの影響を受けて、 欧州理事会は 「テロ対策のための2002年6月13日の枠組決定」 を採択した。
施行は2002年6月22日である。
その目的は、 EU加盟各国のテロ対策を一定の水準以上に引き上げることにあった。
枠組決定の第1条は、 テロリズムの定義を規定して、 次のように定めている。
レファレンス 2005.1044
Ben Golder and George Williams "WHAT IS TERRORISM? PROBREMS OF LEGAL DEFINITION",UNSW Law Journal, vol.27No.2 (August 2004), pp.279-280.
国立国会図書館調査及び立法考査局海外立法情報調査室・課 「ロンドン同時多発テロに関する各国の反応」『外国の立法 立法情報・翻訳・解説』 特別号, 2005.8.1, p.6. (事務用資料)
「各加盟国は、 以下に列記した、 各国の法規に従って犯罪と定義された故意の行為が国民を脅かし、 政府機関若しくは国際機関に作為若しくは不作為を違法に強制し、 又は一国若しくは国際機関の政治的、 憲法的、 経済的、 社会的な基本構造の不安定化若しくは破壊を目的として行われた場合、 テロリスト犯罪として位置付けられるよう必要な措置をとる。」 と規定し、 その後に、 人を死に至らしめうる攻撃、 人の身体の完全性に対する攻撃、 誘拐又は人質、 などの犯罪を列挙している(21)。
4 フランス
フランスのテロリズムについての重要な法律として、 1986年に制定された 「テロリズム及び国家の安全に関する1986年9月9日の法律」、1991年の 「電信の方法で発せられ、 伝達され、受け取られた個人の通信の傍受に関する1991年7月10日の法律」、 1996年の 「テロリズムの抑圧に関する1996年7月22日の法律」、 「テロリズムの事件において夜間の条件つきの拘留及び捜索に関する1996年12月30日の法律」、 2001年の「日常生活の安全に関する2001年11月13日の法律」、 および2003年の 「国内の安全に関する2003年3月18日の法律」 などがある。
これらの法律は、 特にテロリズムについての定義づけを行っていない。
定義らしきものが見られるのは刑法である。
フランス刑法典は、 1994年に改正され、 テロ行為について第421-1条という独立の条文を設けた。
現在、 第421-1条のテロリズムに関する規定には、 次のものが含まれている。
?威嚇又は恐怖によって公の秩序を著しく妨げる目的をもって企てられた、 生命、 人身の完全性を損なう行為、 誘拐、 人質をとる行為、航空機、 船舶等の輸送手段の奪取(22)
?窃盗、 強要、 財産の破壊、 商品の損壊、 一定のコンピュータ関連犯罪(23)
?戦闘集団を組織すること。 戦闘集団とは、 武器を携帯し、 階層的な組織を持ち、 公の秩序を乱す恐れのある集団をいう。
?致死性の又は爆発性のエンジン又は機械を製造又は保有すること
?前述の犯罪の成果を受け取ること
?インサイダー取引
?マネーロンダリング (資金洗浄)
また、 421-2条は 「人又は動物を害する性質の物質を大気中、 地上、 地下又は水系に放出すること」 をテロリズムとして処罰している(24)。
5 ドイツ
1970年代、 1980年代にかけての極左過激派集団対策、 そして9.11同時多発事件以降の国際テロ対策等、 ドイツは多くの対テロ対策を行ってきたが、 「テロリズム」 という言葉が何を意味するかということについては、 最近まで規定がなかった。
2003年に刑法の改正が行われ、 第129a条において、 テロリズムの概念が規定されている。
ドイツ刑法第129a条は、 「テロリスト団体編成の罪」 を見出しとしている。
同条は次のように規定されている。
第129a条
レファレンス 2005.10
テロリズムの定義45
渡辺斉志 「ドイツ:テロリスト犯罪規定を改正するための法律案−EU法の国内法化」 『外国の立法』 218号,2003.11, p.151.
只木誠 「フランス新刑法の研究・6 刑法各則」 『法律時報』 66, 1994.12, pp.89-90.
?から?については、 次の文献から和訳した。 Stephanie Dagron "Country Report on France" Christian Walter. et al., Terrorism as a Challenge for National and International Law:Security versus Liberty,New York:Springer, 2003, pp.269-270. Ibid., p.270.
第1項 以下の罪を目的とし、 又はそのような罪を犯す団体を編成し、 又はこれに参加した者は、 1年以上10年以下の自由刑に処す。
・謀殺罪、 故殺罪、 民族謀殺罪、 人間性に対する罪、 戦争犯罪・恐喝的人身奪取罪、 人質罪
第2項 以下の各号に掲げた罪を犯すことを目的とし、 又はそのような罪を犯す団体を編成した者は、 第1項と同様の刑に処す。
1 他人に対し、 身体的又は精神的な損害を与えること
2 放火、 失火、 溢水、 軌道・船舶・航空交通に対する危険行為、 公共の経営の妨害、 航空交通及び海上交通に対する攻撃等の罪
3 毒物の解放による重大な危険を招く罪の場合における環境に対する罪
4 ABC兵器や対人地雷の製造の罪
5 火器の不法な所有・製造等の罪
また、 上述したような団体に参加した者も、 上記1−5の犯罪の一が以下の行為にあてはまる場合、 又はその行為により国家や国際機関が著しく害される場合は、 第1項と同様の刑に処す。
・民衆を重大な方法で脅かすこと。
・官庁や国際機関に対し、 暴力や暴力を伴う脅迫によって強制を加えること。
・国家又は国際機関の政治的・憲法的・経済的・社会的な基本構造を不安定化させ、又は破壊すること(25)。
第129a条第1項と第2項の前段までは、 テロ行為を類型化したものであるが、 第2項後段の 「民衆を重大な方法で脅かすこと」 以下は、前述の 「? さまざまなテロリズムの定義」 の中で述べられているテロの概念を説明していると考えられるだろう。
6 日 本
公安調査庁は 『国際テロリズム要覧』 1998年刊の中で、 テロリズムを次のように定義している。
「テロリズムとは、 国家の秘密工作員又は国内外の結社、 グループが、 その政治目的の遂行上、 当事者はもとより当事者以外の周囲の人間に対してもその影響力を及ぼすべく、 非戦闘員またはこれに準ずる目標に対して計画的に行われる不法な暴力の行使をいう」
「国際テロリズムとは、 2カ国以上の市民又は地域の絡んだテロリズムをいう。本質的には、 ある一国に本拠を置きながら、 他の国で作戦行動を行うグループの活動をいい、 外国に対して国家の支持の下に行われるテロリズムから種々のテロ組織相互間の協力関係に至るまで、 現代の世界で起こるいろいろな事柄を意味する。
テロリズムは次の場合に 「国際的」 となる。
?外国人または外国の目標に向かう場合
?一国以外の政府または党派と連携する場合
?外国政府の政策への影響を狙う場合」
以上、 諸外国等の国内法又は政府によるテロリズムの定義を取りまとめると次のようになる。
テロリズムとは、 ある定義では、 もっぱら市民を標的とする暴力行為を意味している。
別の定義では、 政治的、 宗教的、 イデオロギー的な目標を達成するため、 恐怖を作り出すことを目的として暴力を行うこと又は暴力の威嚇を行うことを意味している。
後者の定義づけによれば、 市民、 公務員、 軍人、 政府の利益のために従事している人々を含むあらゆる人間は、 誰でもテロリストの行為の標的となりうる。
レファレンス 2005.1046
渡辺 前掲論文, p.155.
以上から、 ここで取り上げた諸国等において、テロリズムとは、 直接の暴力のみでは目的を達成できないテロリストが、 威嚇又は恐怖を植えつけることを通じて、 政府へ圧力をかけるための恐喝の一形態として使用され得るものと考えられる。
このような定義から、 テロリズムの構成要素として、 以下の事項を挙げることができる。
第一に、 政治的な目的の存在が挙げられる。
前記 『国際テロリズム要覧』 は政治的目的として、 以下の9項目を挙げている。
?王権の獲得
?政権の奪取
?政治的・外交的優位の獲得
?政権の攪乱・破壊
?報復
?通常戦争の補完・代替・補助
?逮捕・収監された構成員の釈放及び救出
?活動資金の獲得
?自己宣伝
第二に、 衝撃、 戦慄、 恐怖、 威嚇あるいは急変による注意の喚起が挙げられる。
社会には、 秩序と安全への渇望があって、暴力的威圧を規制する決まりや境界が作られている。
この境界を越えると、 衝撃が生まれる。
防御不能のものを攻撃するというテロ特有の行為は、 社会における不安感を劇的なまでに増大させる(26)。
このような騒動や異常は、 人々の興味をひきつけるために必要とされている。
第三に、 暴力の行使があることが挙げられる。
恐怖心を喚起させる方法として、 何らかの暴力を伴う。
このほか、 非合法性や、 行為の組織性、 計画性を挙げる意見もある(27)。